アフガニスタンで反政府勢力・タリバンがカブールを掌握し、20年ぶりに実権を握ることになった。バイデン米大統領が4月、アフガニスタン在留米軍を9月11日まで(その後は8月31日までと発表)に完全撤退させることを表明して以降、タリバンはアフガニスタン国内での攻勢を強めていった。タリバンはもともとの優勢地域だった南部や東部から、タジキスタンやウズベキスタンと国境を接する北部やイランと接する西部を短期間のうちに支配下に置くなど、そのスピーディーな権力奪還はバイデン政権も予想していなかったという。
今のところ、米国など欧米諸国はタリバンを政府承認するつもりはない一方、中国はタリバンに接近し、関係を強化していく姿勢を示している。中国の王毅外相とタリバンのナンバー2であるバラダル師は7月28日に天津で会談し、アフガン情勢の安定や米軍撤収後の行方について緊密に意見交換した。また、習近平国家主席も7月16日、ガニ大統領(UAEに避難中)と電話会談するなど、中国のアフガニスタンへの接近は顕著になっている。
中国がタリバンに接近する理由は2つある。1つは、経済的な理由だ。中国は長年、巨大経済圏構想「一帯一路」に基づき、アフガニスタンに大規模な経済投資を行っている。実は、アフガニスタンは金や鉄などの鉱物資源が非常に豊富で、その規模は1兆ドルを超えるとも言われており、習政権は最新技術を駆使してその鉱物資源にアプローチし、大きな利権を獲得したい狙いがある。また、一帯一路構想を拡大させる上で、アフガニスタンは中国にとって重要な場所にある。中国は既にパキスタンや中央アジア諸国と積極的に経済関係を強化しているが、その地域ではアフガニスタンだけがほぼ政治的な空白地帯といえる。米軍のプレゼンスがなくなることで、中国はアフガニスタンへの影響力拡大にエンジンを掛ける可能性がある。
もう1つは、テロを巡る問題だ。アフガニスタン駐留米軍の撤退は、中国にとって隣国から競争国のプレゼンスがなくなるという意味でプラス要因のようにも映るが、アフガニスタンの今後のテロ情勢を考慮すればマイナス要因にもなりうる。国連安保理の報告書によると、アフガニスタンには新疆ウイグル自治区の中国からの独立を目指す武装勢力「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」、「トルキスタン・イスラム党(TIP)」のメンバー500人あまりが活動し、特に、中国との国境地帯にある北東部バダフシャーン州やワハーン回廊周辺に集中しているという。今年になって新疆ウイグルの人権問題を巡って中国と欧米の対立が先鋭化しているが、中国はETIMなどウイグル独立派の動きに長年神経を尖らせ、アフガニスタンの混乱が新疆ウイグル自治区に飛び火し、独立を巡る動きが活発化することを強く警戒している。このことから、中国は既にタリバンに対してテロ組織(アルカイダやETIMなど)との関係を断つよう強く求めており、それが両者の関係の行方を左右するバロメーターとなるだろう。
中国のアフガニスタン接近には少なくとも以上の理由があるが、中国はタリバンが再び実権を握ることを望んでいたわけではない。今後の一帯一路の拡大とテロ組織取り締まりを考えた場合、それができるのはタリバンしかないという現実的な思いを中国は持っているはずだ。しかし、タリバンといっても穏健派や強硬派など様々な意見があり、内部闘争も少なくなく、アルカイダやETIMとの関係を断つことは決して簡単ではない。中国がアフガニスタンへ影響力拡大を狙えば狙うほど、アルカイダやETIMなどのイスラム過激派が中国権益へのテロをエスカレートさせるリスクもある。中国にとってアフガニスタンへの関与は決して簡単ではない。