まん丸真っ白でヤンチャな甘えん坊ぶりに「ちびまんじゅう王子」と呼ばれた秋田県・男鹿水族館GAOのホッキョクグマの子ども。「フブキ」という雪国らしい名前をつけてもらい、一般公開も始まり連日多くの人が訪れていますが、その展示場前に「写真撮影マナーを守って」というお願い掲示が。フラッシュ撮影禁止の掲示はよくありますが、具体的な例を挙げたり「譲り合っての観覧を」とここまで強く呼びかけたりするのは珍しいこと。その背景には、ホッキョクグマの親子の成長を、温かく楽しみながら見守ってほしいと願う水族館スタッフたちの切実な思いがありました。
「写真撮影のための場所取りは禁止」「譲り合って」
フブキは2020年12月末、同水族館で生まれました。誕生が確認された瞬間から母グマのユキと産室で過ごす様子が公式SNSで発信され、特に動画は大人気。日々の成長、奮闘する母グマの姿は、謎に満ちたホッキョクグマの生態を知る貴重な映像でもあり、多くの人が驚かされ、癒されつつ、親子に声援を送ってきました。
そして正式公開を前に展示場に馴れる訓練を重ねていたころ、親子の写真撮影マナーに関する「お願い」が公式SNSで発信され、掲示もされるように。写真撮影のための場所取りの禁止や、子ども専用観覧台に上がっての撮影禁止、譲り合っての観覧を促す具体的なお願いが列記され、「多くの人が親子を楽しんで観察できない状況は好ましくない」と書かれていました。
いろいろと、かなり困ることがあったのでしょう。SNS上では、実際に不愉快な思いをしたという声もあれば、ゆずり合っていたと思うけれど…と戸惑う声も。また、コロナ禍もあり気軽に現地に行けない状況だけに、「写真や動画をシェアしてもらうのはありがたいけれど、複雑」「カメラというだけで悪者扱いは辛い…」という声もありました。
掲示の効果?驚くほど和やかな雰囲気に
そんなさまざまな反応がある中、筆者は6月に同館へ。ヨチヨチ歩きを卒業しかけ、「立派な子グマ」になったフブキと、母親のユキに会うことができました。かわいい! 「あなたがオムツしてるころから知ってるのよ」と親戚の子を生ぬるい目で見てしまうような感覚。初めて会った気がしないのはずっと写真や動画で見てきたから。ユキのお母さんぶりにもしみじみ感動しつつ、親子がおもちゃを奪い合って走り回り、泳ぎまくる姿を見ることができました。
特にプールで戯れ出すと観覧側もあっちへこっちへと大忙し。立派なカメラの人もスマホの人も、見てるだけの人も、時々後ろを気にして譲り合うなど何とも和やかな雰囲気。親子に釘付けになっている大人の壁に阻まれ「子ども専用台」にたどり着けずにいる子どもに気づいた人同士が声を掛け合って誘導してあげる光景も。フブキが同世代(?)の男の子とずっとにらめっこのように目線を合わせる姿に観覧側みんなで爆笑。ゆずり合い過剰というのか最高に良い場面で「S特等席」に空きがあるという状況もあったほどです。
周囲を気遣いあう様子にホッとしたものの、このような掲示が必要なほどに困ったことがあったということ。同館の広報担当者に掲示の経緯を聞くと、「ご来館いただく全ての皆様にルールやマナーを守ってご観覧いただけるよう、ご協力をお願いするためのものです。掲示することでスタッフがお声掛けしやすくなり、実際、掲示後は館内アンケートなどで届く苦情も減っています」とのこと。たしかに、お願い掲示があるおかげで周囲を気遣い合うことができ、かなり効果あり、でした。
スマホやカメラ用の充電スペース新設
写真や動画を撮ることや、それを発信すること自体を躊躇する声もSNS上にはありましたが、「写真や動画はどんどんシェアしていただいて、生き物や水族館にあまり興味のない方にも魅力が少しでも伝わっていってくれればいいなと思います」。同館では最近、スマホなどの充電ができるスペースを設け、Wi-Fi環境も整備しており、親子の展示場前の休憩場所でも使用可能。「館内Wi-Fiや充電スペースをどんどんご活用いただき素敵な写真・動画を撮っていただければと思います」と話してくれました。