香港の中国化に歯止めが掛からない。昨年7月に香港で国家安全維持法が施行されて以降、民主派への取り締まりや言論統制が強化され、先月には民主派の最後の砦だったリンゴ日報が事実上の廃刊となった。これまでの一国二制度から事実上一国一制度になったと指摘される中、香港市民は懸念を強めている。英内務省が最近明らかにした情報によると、英国が今年1月末から受付を開始した香港からの移住者のための特別ビザの申請者数が4月末までで3万4300人に上ったとされ、今後香港からの脱出がさらに加速化する可能性がある。
米国企業の42%「今後香港を離れる意向」
一方、懸念を強めているのは香港市民だけではなく、香港で経済活動を展開する外資系企業の間でも広がっている。香港問題というとメディアでは政治問題しかほぼ取り上げられないが、経済的な視点から観ることも重要だろう。
たとえば、香港に展開する米国企業で構成させる在香港米国商工会議所が今年5月に行ったアンケートによると、米国企業の42%が「今後香港を離れる意向」があり、そのうち48%の企業が「今後3年から5年以内に離れたい」と回答したという。また、香港から離れる理由では「新型コロナウイルスの感染拡大」が49%だった一方、「香港国家安全維持法」は62%にも上った。
去年7月にも同様の調査が行われたが、その際にも、香港に進出する米企業の76%が香港国家安全維持法を「非常に懸念している」と回答し、同法の適用範囲や基準が明確でなく、米中関係の悪化など政治的思惑で外国権益も処罰の対象になることへの懸念を示した。
日系企業、半数近くは「これまでと変わらず」
一方、2020年10月、日本貿易振興機構(ジェトロ)などが香港の日系企業向けに行った調査によると、67%あまりの企業が香港国家安全維持法に懸念を示し、そのうち15%が「大いに懸念している」と回答した。また、当局による情報統制や法の支配の不安定化への心配の声が多く聞かれ、34%が香港拠点の縮小や撤退、統括機能の見直しを検討していると回答した。しかし、半数近くの企業は香港での経済活動はこれまでと変わらないと回答している。
一概に日米の調査結果を比較することはできないが、日本企業以上に米国企業の中国への警戒感が強いことがうかがえる。それは近年の米中対立をみれば当然のことかも知れないが、今後両国間の経済摩擦がいっそう激しくなれば、米国企業の香港から脱出する動きはより加速化するであろう。ちなみに、去年7月、米有力紙ニューヨークタイムズは香港にある一部拠点をソウルに移転させると発表している。
一方、日系企業については、米中対立の中で日本の外交的立ち位置は非常に難しいが、今日の日中関係が米中関係ほど対立していないという部分が影響している。また、日本経済の対中依存を考えれば、経済の脱中国化は事実上難しいという企業の本音もあるのだろう。しかし、最近可決された外国制裁法では第3国への制裁も可能と明記されており、米中対立の中に日中経済が巻き込まれるリスクは十分に把握しておく必要があるだろう。
この件について、筆者も最近企業関係者と話をしたことがあるが、今後の動向を心配している企業関係者が増えるだけでなく、香港と中国本土を区別しないで今後の動向を探る人たちがいたのが印象的だった。規模縮小や撤退が簡単なことではない。しかし、香港が以前のような香港に戻ることはなく、日系企業に香港と中国本土を区別しないで今後の動向を探る意識が必要だと考える。