5月上旬、英国ではG7先進国首脳会議(サミット)の前哨会議となる外相会合が対面形式で行われた。外相会合の議長声明では、新型コロナパンデミックとともに中国とロシアが現在直面する最大の脅威と位置づけられ、バイデン政権が求める多国間による対中圧力が改めて強調される形となった。同会合には、インドやオーストラリア、韓国なども招待され、民主主義同盟VS中国の構図が鮮明になったといえる。英国は昨年12月、今年のG7先進国首脳会合(サミット)に韓国・オーストラリア・インドを招待し、計10カ国で会談を行う計画を明らかにしていたが、米国だけでなく英国の中国への不満・怒りも非常に高まっている。フランスやドイツなど他の欧州国家より強く、米国に近いといえる。
そのような中、この外相会合ではG7とASEANの協力にも言及があった。これまでの外相会合でASEANとの協力の重要性が指摘されたことはないが、G7としても、インド太平洋構想を強化していく上ではASEANとの協力が欠かせないとの思惑がある。ASEANは地理的にインド太平洋の中心に位置しているが、日本やインド、欧米が主導していくインド太平洋構想においてASEANの協力は必須だ。それを警戒するかのように、中国は5月7日までに、6月に開催予定のASEAN外相会合を中国で開催するよう提案したことが明らかになった。今後、ASEANを巡り民主主義同盟VS中国の競争がいっそう激しくなる可能性が高い。
しかし、この競争は、日本を含む民主主義同盟にとって決して簡単なものではない。根底にある理由は、ASEAN内部の現状だ。ASEANといっても、ミャンマーやラオス、カンボジアは基本的には経済的な結束から中国陣営にある。ミャンマーやラオス、カンボジアは巨大経済圏構想「一対一路」により長年多額の経済支援を受けており、中国に物を言える立場にはない。例えば、スイス・ジュネーブでは去年6月下旬、第44回国連人権理事会が開催され、中国の香港国家安全維持法に関する審議が行われたが、ミャンマーやラオス、カンボジアはそれを支持する立場に回った。現在クーデターで混乱が続くミャンマーは、これまで少数民族ロヒンギャの人権弾圧について沈黙を守り続け、カンボジアではフンセン政権が野党を解党するなどして事実上の独裁体制下にあり、タイもプラユット政権や王政を批判する市民の激しい抗議デモが去年過熱化し、市民への人権侵害が問題になっている。3カ国ともそれぞれ人権問題を抱えている状態で、人権問題を重視するバイデン政権下では、米国との距離がさらに遠のく可能性もある。
よって、日本を含む民主主義同盟にとっては、中国と海洋問題で対立するベトナムやフィリピン、インドネシアとマレーシアとの協力が戦略的に重要となる。
3月下旬、東京では日本とインドネシアの外交・防衛の閣僚協議2プラス2を開催が開催され、その中では、中国依存のサプライチェーンを分散化させていくために両国が協力を緊密化させ、日本企業のインドネシアへの投資拡大などが話し合われた。バイデン大統領も、半導体などで脱中国のサプライチェーン構築に向けて多国間協力を加速化させており、経済安全保障の視点からも、今後は民主主義同盟とインドネシアとベトナムなどとの協力がいっそう重要になる。
現在、ASEANは米中対立の中で2分状態にある。しかし、ASEANにおける人口や経済力を考えると、民主主義同盟が関係を強化すべき国々の方が圧倒的にASEAN内部での影響力は大きいことから、中国はインドネシアやマレーシアへの経済的接近を重視する可能性が高い。今後は、そうさせないための戦略と行動が重要になってくるが、ASEANを巡る競争はいっそう激しくなるだろう。