世界は反対の流れなのに 中国が「東京五輪の開催」を熱烈に支持する理由

治安 太郎 治安 太郎

 現在も続くコロナ禍で、欧米ではワクチン接種が進んでいることもあってか社会的規制が徐々に緩和され、アフターコロナの時代に入りつつある。一方、日本では第4波が北海道から沖縄まで全国を襲い、7月に開催予定の東京五輪でも中止や延期を求める国民の声が半数以上を占めている。

 ワクチン接種も海外諸国に比べて圧倒的に遅れ、感染者や死亡者が一向に止まらないので、国民がそう思うのは当然のことだろう。国民の五輪熱が冷め続けるなか、政府や日本オリンピック委員会(JOC)は開催の準備を着々と進めている。今回の五輪が日本を分断するトリガーとならないことを望むばかりだ。そして、上述にように欧米では規制の緩和が徐々に進んでいるものの、昨今の欧米メディアの東京オリパラについての論調は至って消極的だ。例えば、米有力紙ワシントンポストの電子版は5月6日、日本政府に対して東京オリパラを中止するよう求めるコラムを掲載し、ニューヨークタイムズも同月11日、東京オリパラにより感染が大幅に拡大する恐れがあるとする米大学教授の寄稿を電子版に掲載した。

 そのような中、中国は東京五輪の開催を強く支持し、最近では報道陣3000人あまりを日本に派遣する方針を明らかにした。習近平氏も5月上旬に国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話会談し、東京五輪開催を支持する意思を表明した。しかし、これを国際政治的な視点から捉えると、中国にはいくつかの思惑が見え隠れする。

 まず、日本が新型コロナの流行で混乱するなか、中国としては開催を支持するだけでなく、ワクチン外交を日本にも展開し、シノファームなど中国産ワクチンを大量に日本に供給し、東京五輪で存在感を内外に強く示したい狙いがある。中国は最近もコロナ優等生と言われてきた台湾で感染が急増すると、直ぐにワクチンを提供する用意があると台湾に伝えるなど、周辺各国での影響力拡大を狙っている。これについて、台湾の蔡英文総統は、台湾がドイツ製ワクチンを購入しようとしているが中国が妨害していると非難したが、中国には非政治分野でも周辺各国で影響力を高め、米国をけん制したい狙いがある。

 しかし、中国にとって最大の理由は他にある。上記とも関連するが、実は2022年2月から開催予定の北京冬季五輪まで1年を切っているのだ。仮に、東京五輪が中止、延期ということになれば、今後のコロナの状況によるが、今度は北京五輪がその議論の餌食になる可能性があるのである。当然ながら、習政権は自らがホストする世界イベントを大体的に開催し、その成功を内外に強くアピールしたいので、そのリスクを低くするためにも東京五輪開催という既成事実が欲しいのである。

 また、現在、欧米と中国の対立が先鋭化するなか、一部で欧米が北京五輪の際に外交的ボイコットするとの議論が浮上している。例えば、米国議会下院のペロシ議長は5月半ば、香港国家安全維持法やウイグル人権問題などを理由に、北京五輪の開会式や閉会式の際、各国に選手団以外の首脳や政府関係者の参加を見合わせる外交的なボイコットを行うよう呼び掛けた。欧米諸国が本当にそうするかは分からないが、習政権には東京五輪を支持し、ワクチン提供などで存在力を示すことで、日本を欧米陣営から切り離し、欧米による外交的ボイコット論を払拭したい狙いもある。

 一方、冬季五輪は夏季五輪と比較しても規模は小さく、参加国数も少ない。そして、冬季五輪の全参加国に占める欧米諸国の率は極めて高いことから、2022年のイベントを大々的に成功させるにあたり、習政権としても欧米との関係悪化はできるだけ避けたいはずだ。北京五輪後に習政権の態度が急に硬化するというわけではないだろうが、オリンピックという座標軸から国際政治をみていくと、欧米と必要以上に関係を悪化させたくないという習政権のまた違った姿が見えてくる。

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