米国税関当局が5月10日に明らかにした文書によると、日本のファーストテーリングスが展開するユニクロの男性用シャツが、中国の新疆ウイグル自治区で生産された綿花で製造された可能性があるとして、1月に米国への輸入が差し止められたという。具体的には1月5日、カリフォルニア州にあるロサンゼルス港で税関当局がユニクロの男性用シャツを押収し、それ以降、ユニクロ側はウイグル産の綿花を材料として使っていないと差し止め停止を要求しているが、税関側は強制労働品でないとの証拠が示されていないとしてユニクロ側の要求を却下している。
昨年12月、トランプ政権は新疆ウイグル自治区で強制労働が横行しているとして、中国共産党の傘下にありウイグル綿花の栽培を主導する組織「新疆生産建設兵団(XPCC)」が関係する製品の輸入を一斉に禁止し、バイデン政権も3月に英国やカナダとともに中国へ制裁措置を発動するなど、ウイグル問題めぐり欧米と中国との対立が深まっている。そして、今回のユニクロ製品の輸入差し止めのように、その影響は経済にも及んでいる。
3月に米国などが中国へ制裁措置を発動した直後、スウェーデン衣類品大手の「H&M」や米スポーツ用品大手の「ナイキ」などの欧米企業がこぞって懸念を表明したが、それ以降、中国国内ではH&Mやナイキの製品を買うなと不買運動を呼び掛ける声がネット上で拡散した。また、中国の歌手や芸能人など複数の著名人が各ブランドとの契約解除を相次いで表明した。これまでのところ、それ以上大きな影響が出たわけではないが、人権問題という政治的リスクが企業活動に影響を及ぼすことが露呈された。
この件で、仮に日系企業がH&Mやナイキのようにウイグル問題で懸念を表明していれば日本製品の不買運動を求める声が拡がっていた可能性が高いが、現在のところ、中国に展開する日系企業の活動に大きな影響は出ていない。しかし、直接的な影響は受けなくても間接的な影響を受ける恐れがある。それが今回の米国におけるユニクロ製品の輸入差し止めである。ユニクロが影響を受けるのは実は今回が初めてではない。 例えば、フランス国内の人権NGOなどは4月、新疆ウイグル自治区での人権侵害を巡り、ユニクロのフランス法人や米国、スペインなど衣料品大手4社を、強制労働や人道に対する罪を隠匿している疑いで刑事告発したと明らかにした。受理されるかは不明だが、同人権NGOなどが告発した背景には同4社が強制労働を強いられるウイグル人が栽培した新疆ウイグル産の綿花を使用していないことを断言していないところにある。
今年2月のミャンマークーデター以降、現地における日系企業の活動にも大きな影響が出ている。欧米諸国はミャンマー国軍幹部や国軍系企業へ経済制裁を発動し、ビール大手のキリンは国軍系企業との取引の中止を表明した。また、ウイグル問題でも野菜ジュースで有名なカゴメは、ウイグル産のトマト使用を今年いっぱいで停止することを明らかにしている。
以上のように、経済安全保障の視点から、国際的な人権問題による企業活動への影響を我々はこれまで以上に考える必要がある。人権問題を巡る欧米と中国の対立のなか、たとえ日本が当事者でなくても、米国とフランスにおけるユニクロのケースのように、その間接的な影響を受ける恐れがある。今後はミャンマー問題を巡り、現地に展開する日系企業と欧米との間で摩擦が生じるだけでなく、欧米諸国内で活動する日系企業の活動にも影響が出てくる可能性もある。