「うちの利益が57%減」「それでも、もう避けられない」 トランプ関税25%に構える日本企業 トヨタ・ホンダ・日産…自動車各社が模索する「新航路」とは

和田 大樹 和田 大樹

トランプ大統領が米国向け自動車に25%の関税を課す方針を打ち出したニュースが飛び込んできたのは、2月18日のことだった。フロリダの「マールアラーゴ」で記者団に囲まれたトランプ氏は、いつもの自信満々な口調で、「輸入自動車への関税は25%前後になるだろう。4月2日から始めるつもりだ」と主張した。この発言が日本国内に波紋を広げたのは言うまでもない。筆者の周囲でも、特に製造業に携わる関係者たちから、「今後どうなるんだろう」と不安の声が次々に聞かれた。現行の2.5%から一気に10倍に跳ね上がる関税は、自動車産業にとってまさに生きるか死ぬかの瀬戸際とも言えるだろう。

筆者は先月、複数の中小企業経営者と会合を持ったが、米国向けの輸出が売上の3割を占める企業経営者からは、「トランプ関税が本当にかかったら、うちの価格競争力は吹っ飛ぶ」とため息をつくような声が聞かれた。一方、最近は興味深い変化も見られる。以前なら「どうやって関税を避けるか」が話題の中心だったが、最近は関税が来る前提で「どうやって耐えるか」というように、嵐が避けられないと悟った船乗りが、船を補強する方法を考え始めたかのような雰囲気も出てきている。

では、トランプ氏はどれくらい本気なのか。トランプ氏の意図を探るべく、彼の発言や周辺の動きを追ってみると、関税導入への本気度が垣間見える。2月18日の発言では、米国への自動車輸入が国内産業を圧迫しているという持論を繰り返し、選挙公約だった貿易赤字削減策を推し進める姿勢を鮮明にした。側近のラトニック商務長官も「調査は4月1日までに終わり、4月発効もあり得る」と具体的なスケジュールを口にした。さらに、ホワイトハウス高官が「日本や韓国は米国を不当に利用している」と名指しし、非関税障壁まで制裁対象に含める方針を示唆した。」

ただ、トランプ氏らしい柔軟さも垣間見えるエピソードがある。3月5日、報道官のキャロライン·レビット氏が突然、「自動車への関税適用を1か月免除する」と発表したのだ。背景には、ゼネラル·モーターズなど米自動車大手3社からの強い要請があったらしい。トランプ氏が関税を「交渉の武器」として使い、適用範囲や税率を調整する可能性は捨てきれない。前述の会合に参加した別の経営者からは、「トランプ氏は結局ディールが好きだから、最後は落としどころを探すんじゃない?」と楽観視する声も聞かれた。

しかし、もし25%関税が現実になったら、日本への打撃は計り知れない。米国商務省のデータによると、2024年の日本からの乗用車輸入額は399億ドルで、メキシコに次ぐ2位。輸出額全体の約3割が自動車関連だ。関税で輸出コストが跳ね上がれば、日本車の価格競争力は落ち、ある試算ではマツダの利益が57%減、トヨタや日産も大幅減益に陥ると言われている。GDPを0.3%押し下げる可能性もあると聞くと、経済全体への波及が心配になる。

そんな中、日本企業は黙って手をこまねいているわけではない。トヨタの動きが象徴的だ。昨年、日本から米国に53万台を輸出したトヨタだが、メキシコやカナダにも生産拠点を持っている。関税発動に備え、インディアナ州の工場で生産能力を増強する計画を進めているという。ホンダもカナダでの生産比率を高め、メキシコ依存を減らす戦略にシフト中だ。一方、日産はメキシコ生産が中心だが、米国への工場移転を検討していると噂されている。マツダは米国向け輸出依存度が高く、利益減が懸念される中、現地パートナーとの協業を模索しているようだ。スバルに至っては、米国販売の半分を日本からの輸出に頼っているが、ペンシルベニア州の工場での生産増強を急ピッチで進めている。

筆者の周囲でも、最近の話題は「どう抵抗力を付けるか」に加え、トランプの2期目が終わった後のビジョンにまで広がっている。トランプ政権はあと4年しかなく、仮に25%関税が導入されても、その先を見据えた長期的な戦略が欠かせない。「現地生産を増やすのはもちろん、新技術への投資で競争力を保つしかない」、「短期的なコスト増は痛いけど、供給網を見直すいい機会かもしれない」と前向きに捉える声が以前より多く聞かれる。トランプ関税25%の今後はまだ不透明だ。4月2日に本当に発動されるのか、どの国が対象になるのか、税率は調整されるのか。答えはトランプ氏の胸三寸にかかっている。しかし、日本企業がこの嵐をただ恐れるのではなく、船を補強し、新しい航路を探し始めている姿には、どこか頼もしさを感じる。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。

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