6月11日から13日に開催されたG7サミットでは、中国への強い懸念が示された。その共同声明には、欧米が懸念する香港の非民主化や新疆ウイグルの人権侵害、台湾海峡など習政権が核心的利益と位置づける問題が盛り込まれ、欧米と中国との対立は深まるばかりだ。
予想されたことだが、中国は早速強く反発している。6月10日、全国人民代表大会の常務委員会は、外国が中国に経済制裁などを発動した際に報復することを可能にする「反外国制裁法」を可決した。この法律は6月7日の時点で同常務委員会が可決に向けての審議を開始し、夏までに可決される見込みだったが、異例のスピードで可決された。それだけ中国の欧米への不信感には強いものがあり、G7をけん制する政治的シグナルと捉えて良いだろう。
反外国制裁法は、中国が外国政府から不当な制裁や内政干渉などを受けた場合、中国がその関係者たちへ入国拒否や国外追放、中国国内にある資産凍結、中国企業との取引停止などの措置で報復することができると明記している。米中対立が激しくなるなか、これまでも習政権は報復的措置を講じてきたが、ここまで包括的な法律を可決することはなかっただろう。
ここでのポイントは2つある。まず、反外国制裁法と書かれているが、これは事実上、“外国=米国や英国、または中国との関係が悪化するオーストラリアやカナダなどの欧米”を指していることは間違いない。“反欧米制裁法”とは露骨過ぎるが、「我々は欧米の圧力には屈しない、やられたらやり返す」とのメッセージをバイデン政権などに送っていることを意味する。
もう1つは、何が“外国政府からの不当な制裁や内政干渉”に当たるのか、具体的に中身が書かれておらず、それは、その際の状況やタイミングで習政権が判断するところだ。昨年施行された香港国家維持法も同様に、何が国家の安全を阻害するか具体的な明記がなく、現地に展開する外国企業の間でも懸念の声が広がり、規模縮小や撤退を検討する企業も筆者の周りには少なくない。反外国制裁法を巡っても、習政権には具体的明記を避けることで外国をけん制した狙いがある。
しかし、日本企業との関連でもっと懸念されるのは、同法が、“外国による制裁に第三国も加担すれば第三国にも報復措置をとれる”と明記している点だ。
現在の日中関係は、米中対立ほどヒートアップしているわけではないが、日本政府は米中対立の中で経済的にも難しい立場にあり、中国を必要以上に刺激したくないのが本音だ。日本にとって中国は最大の貿易相手であり、日中経済摩擦は日本経済にとって大きなダメージとなる。
だが、上記のように、“外国による制裁に第三国も加担すれば第三国にも報復措置をとれる”を決定するのは習政権であり、仮に日本は欧米と協力していると判断されれば即制裁対象に加わることになるのだ。日本は米国との密接な関係がある以上、常にこの第三国になってしまうリスクがある。
先週、筆者はこの件で企業関係者たちと話す機会があったが、“反外国制裁法によってリスクがワンランク上がった”、“中国から完全撤退はできないが、できる部分ではこちらも第三国への移転を検討した方がいい”などの意見が上がった。幸いにも、現時点では大きな影響が出ていないが、日本企業にとって反外国制裁法は大きな懸念事項となろう。