「宇治の観光は瀕死だった」 京都の観光土産品組合理事長が語るコロナの1年

浅井 佳穂 浅井 佳穂

 「昨年の春、宇治の観光は瀕死(ひんし)の状態でした」。そう語るのは、京都府宇治市にある宇治観光土産品組合の岩井正和理事長(51)だ。岩井さんは、製菓会社を経営する傍ら、市内約30の観光・土産業者が加盟する組合の代表を務める。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の発令と解除、GoToキャンペーンに揺れた京都・宇治の1年を振り返ってもらった。

 「三室戸寺のツツジが満開の時期に最初の緊急事態宣言が出ました」。岩井さんはそう振り返る。2020年4月16日、京都府を含む全国に緊急事態宣言が発令された。西国三十三所の札所の一つとして知られる三室戸寺はアジサイが有名だが、ツツジも人気だ。宣言発令は、そんな観光シーズンまっただ中のタイミングとなった。

 「観光客がどれくらい来ているかを見る目安を僕は持っています。一つは平等院表参道の混雑度。二つ目は宇治橋上を歩く人の数です」

 例年の春であれば、世界遺産・平等院の門前や、その近くで宇治川に架かる宇治橋には多くの観光客が歩いているはずだった。しかし、2020年は違った。「平等院表参道も宇治橋上も数えられるほどしか人がいないんです」

 やがて宣言の「副作用」が出始めた。土産品が売れなくなり、在庫が増加したのだ。観光土産品組合の前任の理事長と相談したところ、組合で加盟社の商品を買い取り寄付しようという話がまとまり、やがて介護施設に寄付した。施設の関係者からは喜ばれたものの、土産品の販売不振は続いていた。

 岩井さんたちは、夏を前に打開策を考えた。「お中元の時期に合わせて組合各社の製品で宇治ギフトの詰め合わせを作ろう」。組合員からは「売れるわけない」という声も上がったが、5月下旬の観光土産品組合役員会で了承を取り付けた。

 普段は競い合う土産品業者が、かつてないコロナ禍のピンチに手を取り合い、「呉越同舟」の詰め合わせとなった。中元ギフトには名産の宇治茶のほか、茶団子や茶そばが入った。さらには宇治市内に製パン工場を持つ企業の抹茶味のカステラや地元の醸造業者によるしょうゆも加わった。「『上場企業から個人商店まで宇治の土産を集めた』をキャッチコピーにしました」

 「定価より3割ほど安い」とうたい、中元ギフトには3980円の値段を付けた。当初は販売数を読めなかったが、8月20日までの約2カ月で約3600セットが売れたという。「観光産業を死なしたらあかん、との思いが強くあった。結果報告会は(予約減少に苦しむ)京都市内のホテルを会場に行いました」

 秋を迎えると、組合員から「歳暮シーズンに向けて何もしないのか」という問い合わせがあった。

 中元のときと同じ3980円のセットに加え、今度は9480円の「プレミアムver.」セットも設けた。目玉のプレミアムのセットには最高級の玉露や抹茶味のバウムクーヘン、さらには平等院の拝観券や市営茶室「対鳳庵(たいほうあん)」の招待券も付けた。

 両セット合わせて約1700個が売れた。ギフトセットの時期には紅葉シーズンを迎えた。この時期にはGoToキャンペーンの効果もあり、平等院表参道や宇治橋上もいくぶんか人出は戻っていた。

 しかし、年が明けて感染が拡大。1月に2度目の、さらに4月には3度目の緊急事態宣言が発令された。

 自身の製菓会社をはじめ、観光土産品組合の加盟各社は依然、厳しい経営環境に置かれている。

 「日本の基幹産業はやっぱり自動車、電機、機械といった業種。観光関連の産業なんてほんとわずかです。(観光産業の)自分が熱い思いでを持って窮状を訴えても、世間の人々は蚊の食うほどにも思わないでしょう。でも、われわれは会社はつぶせないし、今後へ向けて生き方を探さないといけません」

 ギフトセットは今夏にも販売する予定だ。「インターネットでお土産品を買ったのだから、ぜひ今度は実際に宇治に行ってみたいと思ってもらえるようにしたい。その努力を重ねれば、ポストコロナ時代は違ったかたちの『観光』が見えるのではないかと思っています」

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