「目的外に使われるのでは」悪用の心配も→空港で増えてる「小さな小屋」 実際の反応はどうなのか…これからの課題も

谷町 邦子 谷町 邦子

少しずつ公共施設に増えている小さな小屋のような「カームダウン・クールダウンスペース(室)」。国内の空港では、現在6カ所に設置されており(2023年7月時点)、増えることにほっとして喜ぶ人もいれば、正しい用途で使用されるのか懸念する人も。はたして、いったいどんな存在なのでしょうか?

「カームダウン・クールダウンスペース(室)」は、外からの音や光、視線を遮断し、「知的・精神・発達障害、自閉症、認知症、感覚過敏などの症状」のある人が不安や緊張を和らげる空間になることを目的としています。特に、さまざまな音が鳴り、多くの人が行き交い、日常と異なる環境でパニックなどを起こした際の利用が想定されています。

2023年3月20日に北海道の「新千歳空港」に設置され、同施設がツイッター(現X)で投稿すると、当事者やその家族などを中心に、「こんな施設があると本当にありがたい」「『じゃあ次の旅行で行こうかな』って思いました」と歓迎のコメントが多数寄せられました。

それと同時に、無料で使用できること、突然の利用に対応できるように予約不要なことから、運用開始の紹介記事では「健常者が別の用途(仮眠など)に使うのではないか」「お酒を持ち込んだり、飲食をしたりするのではないか」「汚れたり、臭いが残ったりして、感覚過敏の人が使えなくなってしまうことはないのか」などの懸念を示す人も少なくありませんでした。

同施設を運営する北海道エアポートは設置から約4カ月を経て、「羽田空港」、「成田空港」と同施設を含む「カームダウン・クールダウン室」についてのセミナーを7月に開催。現状について教えてもらいました。

一般的にまだまだ知られていない存在、悪用は?

セミナーに参加した空港で導入がいちばん早かったのは2018年に設置した成田空港、その次が2020年の羽田空港です。羽田空港は、2019年に、大分県に住む発達障害のある子どもとその家族が航空会社主催のサッカー観戦イベントツアーで同空港を利用した時、サポートの依頼を受けた経験が契機になりました。

その際は専門家の意見を参考にパーテーションを使った簡易な場所を設けたそうですが、「2020東京オリンピック」時に発達障害など目に見えにくい障害を持つ人への配慮も必要であるという考え方が社会に広がってきたのを受け、本格的にカームダウン・クールダウンスペースを設置。

また、2023年に設けた新千歳空港は、「カームダウン・クールダウン室」が整備されていないこと自体が、施設的な障壁(バリアー)を生み出している」という有識者の提言がきっかけになったとのことです。

現時点で抱えている課題のひとつは、一般的な認知度だけでなく、空港スタッフの認知度も低く、使用頻度が確認できないこと。また、利用した人からの声が少ないため、カームダウン・クールダウンスペースの数が足りているのかどうかを把握できていないことだそうです。

ただ、どの空港でも巡回をおこなっており、「健常者が別の用途に使う」「食事して汚れたり、臭いが残ったり」といった事例や、本当に必要としている人が利用できない事態は、どの空港でも確認されていないとの報告がありました。

新千歳空港等では、使用している時は室外からわかるように、ロールカーテンを下ろしても床上40cm程度の開口を確保し、また「空港は保安のために巡回を頻繁に行い人目があるので、目的外に露骨に使用するのは難しいのではないか」と同施設の担当者は懸念を払拭する発言も。

少しずつ、改善を進めている最中

いずれの空港もスタッフに対して研修のほか、当事者に対して成田空港は発達障害のある人と家族向けの「搭乗体験プログラム」、羽田空港は障害当事者によるターミナルの視察・調査を実施。新千歳空港ではセミナー開催のほか、利用者へのアンケートも検討。また、それぞれの活動を踏まえて少しずつ改善を進め、今後も必要に応じて対応を検討していくようです。

また3つの空港のなかで最も早く運用が始まった成田空港はスペースを広げたり、改善を随時おこなって進化が顕著。最初に設けた2018年は、利用者の子どもが当該スペースを利用中、他の子どもが遊んで待っていられるよう、キッズスペースと同じフロアに。

その後に、UD(ユニバーサルデザイン)推進委員会の委員等からの「親や介助者が一緒に入れるくらいのスペースが必要」というアドバイスを受けて、2人用のスペースを設置。その翌年には空間をより広くとるために、個室型スペースの天井部を円弧系から平面にした形状のスペースを増設しています。

そして、2022年には前室1室(ハイバック ソファ1台)、個室2室(椅子1脚、スツール1個)と、簡易型よりも広い居室型を整備(第3ターミナル一般エリア)。場所もチェックインカウンターに近く、手続き等での不安や緊張をすぐに和らげられる場所にしたそうです。また身障者乗降場へと続く中央口にも近く、移動中に調子が悪くなった時にすぐ立ち寄れる場所となっています。

また、成田空港では利用者の事前学習のために、ダウンロード可能な空港予習冊子「なりたくうこうからりょこうへいこう!」を作成。カームダウン・クールダウンスペース(室)の位置や、飛行機に乗るまでの手順を、発達障害等特性のある人や小学校低学年の児童でもわかりやすいデザインや内容で説明しています。まだまだ存在が珍しく、どうしたら利用者にとって快適なスペースとなるのか…手探りながらも、改善されていっているのです。

 ◇  ◇

空港の端にあることが多く、不調を感じた人が、音や光からの刺激から逃れるために入る「カームダウン・クールダウンスペース(室)」。利用するか、しないかはともかくとして、「もしも」な事態が起こっても、この施設があれば、安心して空港を利用できると希望を持った人がいることは確かです。今後もさらに改善され、困ったときに過ごしやすい場所となることに期待が寄せられます。

【各空港の設置場所「カームダウン・クールダウン室」】

新千歳空港…全4カ所、国内線のセンタービル(1階)、搭乗待合室内の搭乗口19番付近(2階)、101・102ゲート付近(1階)、国際線ターミナルビルには更衣室内(3階・既存車いす用更衣室と兼用)に設置。

羽田空港…第1、第2ターミナル国内線保安区域内のそれぞれ2カ所、計4カ所です(第1ターミナルはA保安検査場付近、17番搭乗口およびキッズコーナー付近、第2ターミナルではA保安検査場、C保安検査場付近)。保安区域内に設置された理由は、障害のある人が手荷物検査時に不安を感じるケースがあることだとしています。2023年度中には第3ターミナル内にも設置予定。

成田空港…第1〜3ターミナルの計7カ所。第1ターミナル国内線・国際線の保安検査後エリアに各1カ所。第2ターミナル国内線・国際線の保安検査後エリアに各1カ所。第3ターミナルは本館2階の出発手続き前エリアに居室型が1カ所、国内線・国際線の保安検査後エリアに各1カ所となっています。

■新千歳空港ターミナルビル公式WEBサイト https://www.new-chitose-airport.jp/ja/
■成田国際空港公式WEBサイト https://www.narita-airport.jp/jp/
■空港予習冊子 「なりたくうこうから りょこうへいこう!」 https://www.narita-airport.jp/jp/service/service_info17
■羽田空港公式WEBサイト https://tokyo-haneda.com/
■公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団「カームダウン・クールダウン Calm down,cool down について」 https://www.ecomo.or.jp/barrierfree/pictogram/calmdown-cooldown/

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