およそ35年から40年ほど前、空前のバイクブームがありました。当時の若者は16歳になると、こぞって免許を取ってバイクに乗り(ただしその頃、全国の高校はバイクを禁止しているところが多かった)ました。そう、バイクは若者の乗り物だったのです。しかしいまや完全に、バイク乗りのボリュームゾーンは主に中高年に移行しています。
昔バイクブームの頃に乗っていた若者が…
日本自動車工業会がまとめた2019年のデータによると、その年に新しくバイクを買った人の平均年齢は54.7歳だったのだそうです。若者のバイク離れなんて言われますが、単に「若者がバイクに興味を持たなくなった」と言うにはあまりにも極端な数字に感じます。サザエさんで言うと波平さんの年齢の設定が54歳ですから、かなり衝撃的です。
バイクブームの頃に乗り始めた若者のうち、そのままあまり入れ替わらずにスライドしてきた層がかなりの部分を占めているのでしょう。他に、結婚や子育てを機にバイクから遠ざかっていて、こどもの手が離れた時期にまた乗り始めるリターンライダーと呼ばれる人達。また、むかし憧れていたもののなにかの理由で乗れず、年齢的にゆとりができたので一念発起して乗り始めた人達も居るでしょうか。
実は筆者も10代終わりにバイクブームを過ごした世代で、以来途切れずにバイクに乗り続けています。もともとそれほど飛ばせる腕はなかったのですが、50代半ばになり最近は視力や反射神経などの衰えを実感しています。
最近のバイクはものすごく高性能
バイクの方は、この30年あまり性能がものすごく向上しました。「走る、曲がる、止まる」といいますが、とにかくタイヤの性能が劇的に良くなったことが大きいのでしょう。コーナリング性能やブレーキの効きがすばらしく進化して、さらにABS(アンチロックブレーキシステム)などが装備されるようになったこともあって、転倒のリスクが非常に低くなったと感じます。
ただし「走る」、つまりエンジンのパワーも著しく向上しています。排気量1000ccのいわゆるリッターバイクで比較しますと、1985年頃にはおよそ100馬力程度だったのが、いまは200馬力を超えるものも出てきています。その大パワーに対応するために、加速の際にタイヤのスリップを抑えたり、不意に前輪が浮いた場合に出力を抑えたりする機構が備わっている車種もありますが、絶対的な速度は当然ものすごく速くなっています。
中高年のリターンライダーは、自分自身の体力が落ちてきていることを自覚している場合も多いでしょう。またこの先、いつまで乗れるかという時間に対する焦りもあるかもしれません。小さい排気量から徐々に身体を慣らしてステップアップしていって、という時間の余裕はない、しかし経済的なゆとりはあるという方も多く、自然と最初から大きな排気量のバイクに乗って持てあます、ということも多々あると思います。
いわゆる「上がりのバイク」を慈しむ
一方で、かつて若い頃に憧れたバイクが忘れられなくて、いわゆる旧車を探して乗る方もいらっしゃいます。実はいま、1970年代や80年代のバイクが人気を集めていて、車種によっては中古価格が高騰しています。特にその後の排ガス規制で姿を消した2サイクルエンジンのバイクなど、綺麗にレストアされたものは当時の新車の倍以上の値段で取引されています。
当然、性能ではいまのバイクにかないません。故障も多いでしょうし、修理の際には部品が手に入らなくて苦労します。しかし、そういう苦労も楽しむ、手を掛けることで愛着がわく、そんな楽しみ方もまた大人の趣味としては「あり」ということなのでしょう。
体力や視力は落ちていても、結構日々自由になる時間はある。かつて憧れた名車をコツコツと直して、壊さないように労るように、無理なく自然体で楽しむ。いわゆる「上がりのバイク」という一台ととことん付き合うバイクライフもまた、この先のトレンドになるかもしれません。
これからは人生100年時代なんて言われますが、そんな粋な中高年ライダーも増えてくるのではないでしょうか。