ギザギザ光って見えにくい…文豪・芥川龍之介も苦悩した謎の症状

ドクター備忘録

窪谷 日奈子 窪谷 日奈子

 今回ご紹介するのは「閃輝暗点(せんきあんてん)」という病気です。なじみがない病名と思いますが、閃光の「閃」から想像できるかもしれません。キラキラした光が視界に出てきて、光っているところが見えにくくなる(暗点)症状です。

 実際に体験した人は「歯車・サメの口」みたいな円形の光るギザギザ、「ノコギリ・稲妻」みたいな波状の光るギザギザなどと表現したりします。最初は小さく見えていたギザギザした光は、20~30分で大きくなり、その場所が見えにくくなりますが、自然に消えるのが典型的なパターンです。30分から長くても1時間以内に治まることが多いです。

 実際に経験すると「命にかかわる緊急の病気ではないか」「頭が変になったのでは」と不安に駆られ眼科にいらっしゃいますが、これは分類的には目の病気でなく片頭痛の一種とされています。

 ちなみにこの閃輝暗点に悩まされた著名人と言えば芥川龍之介です。芥川の場合は発作時に無数の輝く歯車の回転が出現し、その間は視界がほとんど見えなくなっていたようです。「歯車」という小説に症状があります。「絶えずまわっている半透明の歯車」「次第に数を殖やし、半ば視野を塞いで」「長いことではない」「今度は頭痛を感じはじめる」(「歯車」より抜粋)

 この文章を読めば今でこそ「閃輝暗点の典型だ」と簡単に分かりますが、当時はそういう病気の概念はありませんでした。芥川は不吉な前兆ととらえていたようです。「見える人には見える体質みたいなもの」と身近に種明かしできる人がいたならば、苦悩も少しは軽減したのかもしれません。しかしいくつかの文学は生まれなかったでしょう。

 ちなみに閃輝暗点の原因は不明なことが多いですが、脳梗塞や脳動静脈奇形の初期症状のこともあります。1カ月に何度もギラギラしたものが見える場合は脳神経内科で精密検査をおすすめします。

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