中国は独自で「反米対抗網」形成を目指す 米主導の「反中国包囲網」に対抗

治安 太郎 治安 太郎
国連総会に出席した際の中国・習近平国家主席=Mykhaylo Palinchak(c)123RF.COM
国連総会に出席した際の中国・習近平国家主席=Mykhaylo Palinchak(c)123RF.COM

 バイデン政権が欧州や日本、オーストラリアなどの同盟国と協力し、多国間で中国に対抗する意思を鮮明にしたことから、米中対立は新たな局面に入っている。時代の流れもあるが、トランプ政権下以上に対立が高まっていると言えるだろう。今月上旬、米インド太平洋軍の司令官が今後6年以内に中国が台湾に侵攻する恐れがあると指摘するなど、安全保障面で誰もが恐れてきたシナリオも、より現実的になってきているようにも感じる。そのような中、中国は現在独自で「反米対抗網」形成を目指すべく、積極的な外交を展開している。

 例えば、3月上旬、米国などがウイグルや香港の問題で中国に圧力を掛けるなか、習政権は内政干渉反対を目的とする有志グループの形成・拡大を進めていることが明らかとなった。既に国連加盟国・地域の大使17人がそれに同意・署名し、北朝鮮やロシアをはじめ、カンボジアやラオス、シリアやイランなどが名前を連ねている。この17カ国・地域は、もともと米国と仲が悪かったり、経済制裁を受けたり、また、中国から多額の金銭援助を受けている国で構成されている。

 そして、中国の王毅外相は3月24日から、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーン、オマーン、トルコ、イランの中東6カ国歴訪を開始した。エネルギー安全保障上、中国は中東の石油を必要としているが、それ以外にも思惑がある。中東ではサウジアラビアやバーレーンなどのスンニ派諸国とイランの緊張が続いているが、王毅外相が双方側を訪問することが大きなポイントで、この問題で十分な役割を果たせない米国に代わって独自路線を中東で打ち出し、経済的パイプと政治的影響力を維持・拡大したい狙いがあると考えられる。そして、バイデン政権が人権問題で中国に圧力を掛けているが、サウジアラビアやイラン、トルコなども国内で人権問題を抱えており、中国はそういった国々と人権面で連携を強化したい狙いもあるだろう。

 去年6月、スイス・ジュネーブで開催された第44回国連人権理事会では、欧米から非難が強まる香港国家安全維持法をめぐる審議が行われたが、サウジアラビアやアラブ首長国連邦、バーレーン、オマーン、イランはそれを支持する立場を示している。ちなみに、中国支持に回った国は52カ国に上り、中国から多額の資金援助を受けるアジアやアフリカの国々が目立つ。経済的な圧力を掛けられれば中国を非難できないという事情もあるだろうが、当然ながら、各国によって中国への警戒度は異なる。

 一方、パラグアイ外務省は3月24日、新型コロナウイルスワクチンの提供を中国側から受ける条件として、中国側から台湾との国交断絶を要求されたとの事実を公表した。パラグアイは南米でも珍しく台湾と国交を結んでいるが、中国は台湾が持つ外交関係の断絶に尽力を注いでおり、近年ではドミニカ共和国やブルキナファソなどが相次いで台湾との国交を断絶し、新たに中国と国交を樹立している。中国はパラグアイ外務省の主張を否定しているが、中国には国産ワクチンの拡散的な提供を通じて、台湾との外交関係断絶、中国との国交樹立を加速化させたい思惑もあると考えられる。

 反米対抗網の形成がどこまで拡大するかは分からない。しかし、バイデン政権が描くような中国包囲網に同調しない、同調できない国々も多くあることは事実であり、完全に利害関係が一致するわけではない。

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