中国「海警法」施行から1カ月 尖閣諸島めぐり高まる緊張…脅かされる日本の領土とシーレーン

治安 太郎 治安 太郎

 バイデン政権との間でも中国との対立が深まる中、ペンタゴンは2月23日、尖閣諸島周辺への領海侵入を続ける中国に対して停止するよう要求し、改めて日本の立場を支持すると発表した。バイデン大統領は就任前の秋に菅総理と電話会談した際にも、尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用範囲であると言及している。

 最近、その尖閣諸島を巡って緊張が高まっている。中国では2月1日、必要に応じて中国海警局に外国船への武器使用を認める海警法が施行された。同法は、中国の主権や管轄権が侵害された場合、海警局に武器使用を含むあらゆる措置で対応する権限を与えるもので、日本でも安全保障専門家や政府関係者の間で懸念の声が高まっている。海警局は日本でいう海上保安庁にあたるものだが、2018年の組織改正で軍指揮下にある人民武装警察部隊に編入されるなど軍との一体化が進む、事実上、第2海軍と捉えていい。

 中国は日本に対して尖閣諸島周辺のおける航行を停止するよう求めるなど、その姿勢はこれまでになく強硬になっている。海警局の船が日本の領海内に長く居座ったり、日本の民間漁船に接近・追尾したりするなど危険な行動が顕著になっている。昨年、海警局の船舶は尖閣諸島周辺に365日中333日も現れ、領海侵犯は29日を数える。

 海警法施行を強く警戒しているのは日本や米国だけではない。日本のシーレーンとなる南シナ海においても、中国と領有権を争うベトナムとフィリピンは海警法を強く非難している。中国は昨年4月、2012年に南シナ海の諸島を管轄するために設けた海南省三沙市に、「西沙区」と「南沙区」という新たな行政区を新設し、島々やサンゴ礁など80カ所に独自の名前を付けた。また、同月には西沙諸島で中国公船がベトナムの民間漁船を沈没させ、マレーシアの石油会社所有の船舶を背後から追尾するなどしている。そして、その影響は台湾海峡でも同じだ。台湾当局は昨年8月、2021年の防衛費が2020年から10.2パーセント増の4534億ニュー台湾ドル(約1兆6460億円)に増額することを発表した。中国海軍は国産空母を台湾海峡で航行させるなど、台湾や米国を刺激し続けている。最近も中国空軍の戦闘機11機が台湾が実効支配する南シナ海・東沙諸島の周辺で演習を実施したのを受け、台湾海軍がスクランブル発進するなどしている。

 こういう厳しい安全保障情勢において、具体的にはどんな影響が出ているのだろうか。まず、こういった状況では安心して漁業活動はできない。以前に石垣島や与那国島の漁業団体の人々とこれについて深く意見交換をしたことがあるが、ある漁師は「代々うちの家系は尖閣周辺を漁業領域としてきた、昔中国の船なんて全く見たことがない。今は相手がどんな武器を持っているか、行動をしてくるか分からず安心して漁業ができない」と嘆いていた。また、最近は中国船に追われたという人々もいる。中国は武器使用を公認したのだから、地元漁師の方々の懸念はいっそう大きくなったに違いない。

 しかし、その懸念は地元の漁師だけに限らない。南シナ海は日本のシーレーン(日本の通商・経済上重要な価値があり、国益上確保すべき海上交通路)上にあり、中東や欧州、アフリカなどから来る商船やタンカーの通り道だ。同海域で緊張が高まることは日本の経済安全保障上も深刻な問題であり、石油や輸入品の価格高騰に繋がる恐れもある。海警法を巡る今後の動向が懸念される。

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