「6年以内に台湾侵攻の恐れ」 米インド太平洋軍司令官が指摘…クアッドで憂慮される中国の動向

治安 太郎 治安 太郎

 インド太平洋地域を巡る地政学的な構図は、トランプ前政権からバイデン政権になり、「中国VS日米豪印(クアッド)」に移りつつある。バイデン政権は、このクアッドを通じて安全保障や経済などを巡り中国に対抗していく方針である。また、最近では英国やフランス、ドイツの欧州諸国もこのクアッドに加わろうとしており、正にクアッドは対中包囲網的な色が濃くなっている。

 そのようななか、北京では3月5日から11日までの期間で全国人民代表大会(全人代)が行われたが、中国の米国などへの対抗意識はこれまでになく強く示され、今後の動向が懸念されるところだ。

 2月に施行された海警法については、新時代の国防や軍建設のニーズに応えるため同法が必要であり、習近平強軍思想を貫いていくことが明記された。要は、海警法の対象となっている中国海警局は文字的には“警察”なのだが、正体は“軍”であることを習政権が認めたということだ。前回の論考でも指摘したように、正に“第2海軍”と捉えていい。

 また、全人代では、今年の防衛費が予算案で22兆円あまりとなり、前年比で6.8%増加していることが明らかとなった。これは日本の防衛費の4倍に上る規模になる。だが、これを見る上でひとつ忘れてはならないことがある。中国の国防費を巡っては透明性の問題が長年指摘されており、実際の防衛費や軍事力の規模はもっと高い可能性がある。習政権としては、防衛費の鋭い増加を内外に強くアピールすることで、海洋覇権や貿易摩擦などにおいて他国をけん制し、自らに有利な環境を獲得したい狙いがある。

 そして、それが関係する中、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官は3月9日、上院軍事委員会の公聴会において、軍事力で米軍が中国に追い抜かれ、武力で地域秩序の現状を変更しようとする時期が早まりつつあると言及し、2026年までに西太平洋における米軍優位の状況が変わる可能性があると警告した。米中の軍事競争において、米軍関係者がここまで具体的に言及したことは過去ないと思われる。また、同司令官は、中国が今後6年以内に台湾に侵攻する可能性があるとも指摘した。習政権は香港や新疆ウイグル自治区などと同じく、台湾を絶対に譲ることのできない核心的利益に位置づけており、台湾問題については最も強い態度で臨んでくるだろう。仮に、台湾周辺で有事が発生すれば、日本経済にとって死活的なシーレーンも影響を受け、石油タンカーなど民間商船の航行も大きな被害を受ける恐れがある。

 さらに、全人代では、軍事装備品を含んだ科学技術の自立自強が強調された。中国は軍事力の性能を自らの力で高めようとしており、AI兵器やドローンなどの国産化を進め、開発研究費が大幅に増額されることも決定した。米国は軍事力の規模だけでなく、軍事力の質でも中国とのリアルな競争にさらされている。

 今回の全人代における習政権の決定は、今後の日本の安全保障の行方にとって大きな懸念事項であり、日本はこれまでなく米国やインド、オーストラリアなどとの協力を強化していく必要がある。

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