ぬかるんだ泥沼にハマった1台のトラック。そしてキュルキュルと音を立てて回転するだけの後輪…。もう絶望しかない衝撃的な光景ですが…その光景を無料で自由に使える「フリー素材」として提供したツイートが話題を集めています。
本日、ハマりたてです!
その主は、熊本県南阿蘇村にあるガソリンスタンド丸野石油店で、いわく「『沼った』『沼落ちした』『沼にハメられた』etc...そういった時にお使いください。本日ハマりたてです。」
確かに、時間も他人の目も忘れて夢中になることをネット界隈では「沼った」「沼落ちした」と言い、現実社会でも市民権を獲得した感がありますが…。投稿直後から「プロの仕事を見た気がします」「ハマりたて←ツボった!笑いに変換されているの凄い」「活用させて頂きます」との声が続々と寄せられ、いいねの数は2日足らずで1.6万以上に。コラージュ用に画像加工してくれるユーザーも現れ、「#丸野石油の沼コラ選手権」なるものまで開催。牛すじやティラミスに沼ったものなどおもしろ画像が投稿されています。
泥沼にハマった(本来の意味で)当事者で、4代目店長の丸野隆大さん(29)に話を聞きました。
-見事にハマっていますが、どんな状況だったんでしょう?
「軽油を運ぶためのタンクローリー車なんですが、今は熊本地震で崩落した阿蘇大橋の代わりに間もなく開通する新阿蘇大橋など復興工事が相次いでいて、その現場に燃料を配達することが多いんです。今回の現場もそういう所で、写真には写っていませんが進行方向にその機械があったんです。本来はもう一つ別のルートがあって、そちらだと安全だったんですが、こちらが近道なのと周辺はキレイに整地してあったので大丈夫だろうと思って突っ込んだら、1カ所が沼地状態だったんです」
-な、なるほど…。上辺じゃ分からないですもんね…。抜け出すのは大変だったのでは…。
「ええ(笑)。後輪駆動なのでただ空転するばかりで…。幸い現場は店の近くだったので、店にいた父に来てもらい、目撃して下さっていた工事現場の方に重機で引きずり出してもらいました」
-恐ろしい状況を「フリー素材」にしてしまう発想の転換も笑いました。
「救助を呼んだものの、自分では全く何も出来ないので外に出て周囲の状況を確かめていたんですが、最初は『もし次に新入社員が入って来た時の参考になれば…』と撮影したんです。でも、失敗に終わらせておくよりも『ツイッターに投稿して店や南阿蘇のPRになればラッキー』ぐらいの気持ちでネタでしてみたんですが、思いの外バズって驚いています」
-新入社員の入社予定はあるんですか?
「いえ、うちはちっちゃい親族経営のガソスタなので…。ないですかね(笑)」
逆境のGS、四半世紀で半減も…模索する29歳4代目
その丸野石油店が面する国道57号は、2016年の熊本地震で寸断。お店のすぐ裏山も崩れましたが直接の被害は少なく、丸野さんの父は翌日には店を開け、避難所の発電機などの燃料を配達して回ったそうです。
丸野さんも地震の2年半後、勤めていた熊本市内の健康食品会社を退職し、店を継ぐことに。「人口減もあって一般への販売よりも復興関係の工事現場への配達がメーンになり、人手も足りず、父も腰を痛めてしまって。自分も、祖父の代から50年以上続いてきた店や南阿蘇のために何かしないと、と思った」といい、4代目店長に就任して以降、ツイッターを始めSNSで店や南阿蘇の魅力を発信し続けています。
一方で、ガソリンスタンドを取り巻く状況は厳しさを増し、経済産業省によればピークだった1994年度の6万421店から減少を続け、2019年度には2万9637店と半数以下になりました。2019年度だけでも433店が廃業し、関係者は今後も減少傾向は続くと予想する一方で、地方ではインフラとしてのガソリンスタンド不足を懸念する指摘も。
丸野さんによれば、南阿蘇村でもこの1~2年で2店廃業したといいます。割安なセルフ式への転換も進みますが、それでも「安売り以外の集客ができないか、いつも考えています」といい「ガソスタの接客は事務的になりがちですが、そうはしたくない。田舎のガソリンスタンドならではの丁寧な接客を心がけていますし、遠方から観光にいらしたお客様とも、一言二言でもいい、コミュニケーションが取れれば」と語ります。
昨年10月には国道57号の北側部分が開通して熊本市方面からのアクセスが大幅に改善され、3月7日には新しい阿蘇大橋が開通予定です。丸野さんは「こんな失敗談でしたが、見ず知らずの方ともつながれた。ネットの力ってすごいですね。自然も人も食べ物もめちゃくちゃいい所なので、南阿蘇や阿蘇に沼ってもらえたら嬉しいです」と話してくれました。