知っておきたい「生前贈与」のこと 近い将来大きな改正の可能性

北御門 孝 北御門 孝
知っておきたい生前贈与(morita/stock.adobe.com)
知っておきたい生前贈与(morita/stock.adobe.com)

税制改正は毎年行われる、まるで風物詩のようだ。いつの時期の風物詩かというと少し微妙だ。というのも、その期間は12月から翌4月までに及ぶからだ。おおよそスケジュールは毎年同じで、12月に税制改正大綱の公表、(令和3年度大綱は12月10日に公表された)翌年1月からの国会に提出され、審議を経たのちに3月下旬法案として成立・公布、そして4月に施行という流れになる。

実はここ数年、政府税制調査会は「生前贈与」についての記述をしており、注目されている。令和3年度の改正事項ではないが、特に今回の意見書等は本気度が感じられ、近い将来(最短で令和4年度)に大きな改正があるかもしれないと思わせるのだ。その内容は、簡単に言ってしまえば「相続と贈与を一体的に課税する」ということで、平たく言うと「生前贈与はしてもらって構わないけど、納税額は相続の際に相続財産に加算して計算してください」ということだ。

現行の制度でも相続発生前3年以内に行った贈与は相続税の課税対象になる。3年以内に納めた贈与税を控除して相続税を納める。これを3年に限らず、ずっと過去に遡って相続税の課税対象にするという案である。財産の分割贈与を通じた税負担回避(いわゆる暦年贈与)を防止することが目的の一つであるのはいうまでもない。

ただ、一方で贈与税の税率は相対的に高く設定されているので、生前贈与に対し抑制的に働いている面もある。このことに対して、税制調査会の表現を借りると、「資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築」が必要だと記述されている。この「中立的」な税制について少し考えてみたい。

この記述の意味するところを補足説明すると贈与をする時期をいつにするかによって、税負担が変わってしまうことは「中立的」ではない、逆の言い方をするなら生前贈与をいつ、いくら行っても税負担が変わらないのであれば、もっと生前贈与が進むだろうということをいっている。

果たしてそうなのだろうか。相続税をいつ、いくらぐらい納税しないといけないか。一般の方々にはなかなか困難で予測が立ちにくい。であれば、少しでも納税資金のためにおいておこうと考え、贈与を躊躇するひとがいても不思議ではない。

今年貰った贈与について、贈与税を納めてしまえばそれで課税関係が完結するほうが安心して贈与できるのではないか。筆者はこの改正について良いとも悪いとも言ってはいない。欧米諸国の税制と比較すればこの改正を主張するのも理解はできる。ただ、その改正の理由として「中立的税制」とすることはどうなのか、その是非を言っているだけなのでご理解いただきたい。

租税原則には、「公平」「中立」「簡素」の三つの原則があげられる。このうちの「中立」の意味するところは、税制が経済活動などの意思決定をなるだけ左右してはならないということである。例えとして適切かどうかわからないが、現行の消費税は軽減税率(8%)が存在するため、飲食物を店内で食べたら10%の消費税が課税され、テイクアウトすれば8%の消費税に軽減される。であれば、店内で食べるより持って帰ろうという選択をする人が増えてもおかしくないだろう。これは経済行動の意思決定にかかわってしまっているので中立性を欠くということになる。

ところで税制改正が増税に働く場合は、改正事項を過去に遡及して課税しないのが一般的だ。いつ改正されるか定かではないが、改正が施行されるまでの生前贈与ついては現行の税制が適用されるだろう。

近時、俳句がブームだ。あまたある季語のなかから最も適切な季語を「歳時記」で見つける。春の風物詩ともいえる確定申告の時期を迎えるが、3月の季語に「確定申告」はなるのだろうか。

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