相続に関する民法の規定が、約40年ぶりに大きく改定され、順次施行されています。今回の改正は、残された配偶者が住み慣れた家に住み続けることができるような権利が設けられるなど、近年の相続で起きている課題をふまえたものになっているといいます。主な変更点について、大阪市にある佐田会計事務所の税理士・佐田哲司さんに聞きました。
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相続に関するトラブルを防ぐため、民法では、相続人や遺産分割の基本的なルールを定めています。その民法の相続に関係する部分を一般的に「相続法」と呼んでいます。
今回の改正のきっかけは、婚姻届を出していない男女間に生まれた婚外子(非嫡出子)にも、実子と同等の相続の権利を与えるべきと、最高裁が2012年に判決を出したことでした。すぐに関係する相続法・相続税法の修正がされましたが、それ以外の部分もより現代の時代にあわせた内容にするべく検討が重ねられ、2018年7月に民法が改正され、2019年1月から段階的に施行されています。
相続というと、なかなか身近に感じづらいテーマですが、2015年から相続税の基礎控除(相続税がかからない金額)が縮小されています。かつては遺産の総額が「5000万円+(1000万円×法定相続人数)」までは相続税がかかりませんでしたが、現在は「3000万円+(600万円×法定相続人数)」までとなっています。そのため、申告義務者が倍増しています。相続にまつわるお金のことを考える機会は、より一般的になってくるのかもしれません。
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今回の法改正で興味深いポイントは「配偶者の居住権を保護」したことです。
夫(被相続人)が死亡した後も、妻(配偶者=相続人)が自宅に住み続けたいと望むケースは多いと思います。しかし、残された自宅も遺産のひとつですから、子どもなどを含めた相続人たちの間でどのように遺産を分配するか考えていく中で、「お金にして分割したほうがよいのでは」と売却を迫られることがよくあります。また、妻が遺産として自宅をまるごと得ることができても、自宅の価値が大きすぎるため、その分預貯金などほかの財産を受け取ることができなくなり、生活に困窮してしまうようなケースもありました。
たとえば、自宅2000万円、預貯金3000万円の遺産があり、相続人が妻と子ども1人だったケースを考えると、それぞれの相続分は2500万円ずつになります。その状態で妻が自宅を取得すると、受け取れる預貯金は500万円となり、生活費に不安が残るというようなことが考えられます。
そのため、今回の法改正で、「配偶者居住権」が新設されました。配偶者が終身または一定期間、自宅に住み続けることができる権利です。自宅の権利を「所有権」と「居住権」に分けることで実現しました。所有権とは異なり、人に売ったり、自由に貸したりすることはできないため、その分評価額が低く抑えられ、配偶者は自宅に住み続けながら、預貯金などの財産も多く取得できるようになるとされています。
たとえば上記のケースで、配偶者居住権が1000万円となった場合、妻は預貯金1500万円を取得できます。住む場所もあって生活費もバランスよく相続できるようになりますね。
なお、実際に配偶者居住権がどれくらいの金額になるのかは、建物の寿命や配偶者の余命などを加味して個別に計算しなければなりません。2020年4月からの施行に向け、現在検討が進められています。
ちなみに、そもそも仲のよい家族であれば、数字上の遺産分割がどのような内容であっても「お母さん、そのままその家に住んでください」といって、住んでいる配偶者を追い出すようなことはなかなかありません。このようなかたちで不安を解消しないといけなくなったところに、現代の家族のつながりの変化があらわれているかもしれません。
そのほか、介護や看病に貢献した親族がいた場合、相続人でなくても金銭要求が可能になったり、遺言書をつくるときに、財産目録をパソコンなどで作成してもよくなったりしています(その場合、該当のページに署名押印が必要です)。