家族が亡くなると、否応なくさまざまな手続きが発生し、残された者はその対応に忙殺される。昨年の初めに父が亡くなり、筆者は長男という立場もあって、相続に関する一切の手続きを引き受けざるを得なかった。預貯金の相続、遺族年金の請求、市営住宅の名義変更には戸籍謄本と印鑑登録証明書を求められたので、その都度地元の区役所へ足を運んだ。相続手続きをやる流れの中で、枝分かれ的に発生した手続きもある。父の郷里から改正原戸籍を取り寄せる手続きや母の印鑑登録は、それをしなければ相続手続きが進まないから、面倒でもやるしかない。しかし、すべての手続きをやり終えてから分かったことだが、筆者は死後の手続きをやるにあたって3つのミスを犯していた。
ひとつは、「法定相続情報証明制度」を知らなかったことだ。
この制度は法務省が2017(平成29)年から始めた新しい制度で、利用者は謄本等の束と相続関係を一覧にした「法定相続情報一覧図」を登記所(法務局)へ提出すれば、登記官がその一覧図に認証文を付した法定相続情報の写しを無料で交付してくれる。それが証明書類になるので、戸籍謄本や印鑑登録証明書などを何度も取りに行かずに済む。つまり従来は手続きごとに相続を証明する書類一式を提出する必要があったけれども、この制度によって法定相続情報証明を1通提出するだけで済むわけだ。
筆者は区役所の窓口へ謄本や印鑑登録証明書を取りに行くたびに、理由を「相続手続きのため」と記入していた。しかし区役所の職員からは、法定相続情報証明制度があることを一度も案内されなかった。住民の利便性に適う制度なら、所管する官庁が違っても積極的に案内してほしいと思う。
もうひとつのミスは、手続きを急いだために、取らなくていい戸籍謄本や住民票を無駄に取ってしまったこと。相続手続きの際、金融機関に原本を提出するのだが、その場でコピーして原本は返してくれる。それを使って次の金融機関で手続きをすればよかったのに、ほぼ同時に進めたものだから、わざわざ手数料を納めて2重3重に無駄を重ねてしまったのが悔やまれる。情報がネットから簡単に入手できるとはいえ、このように細々と「勝手が分からないこと」があると分かっただけでも、今後の教訓になったと思うことにしている。
さて、父の死後、筆者が直接かかわった手続きは遺産相続、市営住宅の名義変更、遺族年金の請求、そして公共料金の名義変更と振替口座の変更だった。提出先が同じなのに名目が変わるだけでフォーマットが異なるため、いちいち手書きしなければならない書類の山にウンザリした。それでも不動産も債権もないささやかな庶民の暮らしだったから、まだマシだったかもしれない。場合によっては100を超える手続きが発生するともいわれ、知らなかったばかりに手続きが遅れて金銭トラブルに巻き込まれるケースがあるという。
手続きの種類はさまざまで、その期限は、筆者が知り得た範囲だけでも「死亡した日」から「5年以内」まで幅がある。家族が亡くなって悲しみのどん底にあるときに、手続きに関してスケジュール管理を完璧に行うのは難しい。家族の死なんて考えたくないけれども、どの手続きをいつやるのか、日ごろから整理しておいたほうが、落ち着いて対応できる。筆者が犯した3つめのミスが、まさにこれだった。父が入院したとき、年齢を考えれば、そう遠くない日にお迎えが来ることが分かっていたはずだ。それを先延ばしにしていたために、慌てたり混乱したりする羽目に陥ったのである。