「あっちから行こうか」。守護天使(母親)は子どもにばれないように、おもちゃ売り場を避ける—。島根県在住のインフルエンサー・ズボラかーちゃんは母親のイライラが募る育児の一場面を、西洋絵画の名作に、気の利いたコメントを添えてインスタグラムに投稿する。笑いと共感が集まり、人気作をまとめた著書「子育てあるある美術館」(文響社)を出版した。
育児は男女で協力するものという認識は浸透したが、負担はまだまだ母親に偏りがちだ。ズボラかーちゃんは30代で、小学生の男女2人の母親。子どもの体調不良などで欠勤が続くと「なぜ自分ばかり職場に謝り、休まないといけないのか」とモヤモヤした。
3年前、育児の悩みをインスタグラムに投稿すると共感を得た。特に著作権保護期間を過ぎた西洋絵画とともに、わが子の機嫌に振り回される大変さなど「育児あるある」のコメントを添えると、絵画と台詞がぴったり適合して笑えると好評だった。
著書には人気投稿と未公開作計48点を妊娠期、乳児期、イヤイヤ期、きょうだい育児の四つに分類して収録。書き下ろしコメントや絵画の作品解説も加えた。
このうち、抱っこされてぐっすり眠るわが子と対照的に、疲れ切った表情で天を仰ぐ母親を描いた絵画には「背中スイッチの解除が一生無理」とコメントを添えた。乳児期、寝かしつけは骨が折れ、抱っこした状態でどうにか寝かせても布団に置くと目を覚まし、家事も休息もままならない。振り出しに戻りたくないと、そのままでじっと耐える苦労を名画に重ねた。
自我が芽生え始める2歳前後のイヤイヤ期は着替えもすんなり進まない。子どもの着たい服が出がけに突然変わったり、快晴なのに長靴を履いて出かけたがったりで、困ることがある。母子が描かれた一枚に「このふくいやだ」「自分で選んだじゃん」と2人の心の声を明示した。
「メドゥーサの首」や「落穂拾い」といった名画も、きょうだいげんかを𠮟る母や、誤飲しないように小物を拾い集める母の姿になぞらえ、笑いを誘う。
わが子はかわいくとも思うようにいかないことの連続。ズボラかーちゃんは「育児も家事も本当に大変。少しでも笑ってもらえたらうれしい」との思いを原動力に、日常を飾らず、ユーモアあふれる表現とともに、投稿を続ける。
「イライラしていても、ページをめくって『まあいいか』となってほしい」
108ページ、A5変形判。1595円。