寒い冬に手放せなくなる使い捨てカイロ。発熱しなくなったらゴミ箱行きだったが、中身の酸化鉄を再利用して水をきれいにするプロジェクトの事業化に取り組んでいる人がいる。
使い捨てカイロの中身で水がきれいになる仕組み
使い捨てカイロに入っている粉は、単純にいうと「鉄と炭の粉」。パッケージの密封が解かれて、空気中の酸素と反応すると熱を発生する。発熱しなくなったらゴミとして捨てられ、焼却処分されていた。
これを捨てずに回収し、酸を加えて鉄と炭の団子「Go Green Cube」というチップに加工したものを、池や川などヘドロが発生している水に投入する。そうするとGo Green Cubeから「二価鉄イオン」が溶け出して、ヘドロに含まれる硫化水素や揮発性硫黄化合物、そして水中のリン酸にはたらきかけて「無害化」されるのだ。ちなみに、加える酸の種類は企業秘密。
このプロジェクトを事業化するため、2018年に「GoGreenGroup 株式会社」を設立した山下崇さんによると、池や川など自然の環境下にある水に発生したヘドロに含まれる硫化水素やメチルメルカプタンによる悪臭を抑えるほか、リン酸は「リン酸鉄」に変化して沈殿することで富栄養化を抑え、赤潮やアオコなどの原因となるプランクトンの大量発生を防ぐ。そして光合成細菌による光合成が活性化されることで、水生生物の生育に適した環境へ「戻っていく」という。
使い捨てカイロが適している理由は、使用されている鉄は合金化などの処理が施されておらず、自然界に存在する一般的な鉄に最も近いからだ。
2025年の万博までに夢洲の海をきれいにしたい
ヘドロで汚れた池や川を、使用済みカイロを使って浄化しようという試みは、東京海洋大学で基礎研究が行われていた。それを知った山下さんが担当教授にコンタクトをとり、事業化に向けた協力を申し出た。
「担当教授にお会いするため、大阪から東京まで訪ねて行きました。初めの約束ではわずか15分しか時間を取れないとおっしゃっていたのに、気が付くと予定を大幅にオーバーして2時間も語り合い、意気投合していました」
会社を設立するにあたって、知人が600万円を投資してくれた。Go Green Cubeの製造も、はじめは手作業だった。それではやはり時間も経費もかかる。だが、Go Green Cubeを成型するロータリープレス機と工場用の空き物件が上手いタイミングで見つかり、小さいながらも工場を稼働させた。2月には、さらに大きな工場へ移転する予定だ。
Go Green Cubeを、どう使えば効果的なのか、ゴルフ場の池で実験も行っている。
「広さ約1,600平方メートルの池で、実験をさせてもらっています」
ゴルフ場の環境は、芝生の養生や雑草を取り除いてコースの品質を担保することが最優先で、そのためさまざまな農薬や堆肥が散布されている。それらに含まれる化学物質が地表から浸透して池に蓄積され、ヘドロが堆積して悪臭を放つ原因になっている。また、ゴルフ場内だけでなく、近隣の河川への悪影響も心配されている。
ゴルフ場で山下さんが見た池は「水が汚い」というレベルを通り越して、まるで池全体がヘドロ化したような様相だったという。そこへ池の水1立方メートルに対して10グラムのGo Green Cubeを、1週間ごとに1回投入し続けた。
「13週間後には、池の底にヘドロが溜まっているのが上から見えるていどの透明感が現れて、見た目にもきれいになった印象でした」
Go Green Cubeは、一度にたくさん投入するより、適量を見極めながら小分けに投入し続けるほうが高い効果を得られるそうだ。
「長い年月かけて汚れた水を一気に浄化しようとすると、大きな環境負荷がかかります。ゆっくり回復していく過程を見守ることが大切なのです」
投入されたGo Green Cubeが、水の中でどうなるのかも気になる。
「二価鉄イオンが水中に溶け出した後は、最終的に炭と鉄になります。Go Green Cubeの成分は約9割が鉄ですし、鉄は地球上で最も多い元素です。Go Green Cubeの最期は土にかえっていきます」
山下さんには夢がある。
4年後に開催を予定されている「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)までに、会場となる夢洲周辺の海をきれいにすること。
「相手は海ですから、とんでもない量のGo Green Cubeが必要ですね」
さらにその先には「世界中の“人が汚した水”をもとに戻したい」とも語る。
求む! 使用済みカイロ
そこで必要になるのが、使用済みカイロだ。
「いまは兵庫県内16カ所のゴルフ場に回収ボックスを置かせてもらっています。また他企業との共同事業として、サッカースタジアムを訪れたお客さんに使い捨てカイロを配っておいて、試合の観戦中はそれで暖を取ってもらう。試合が終わって帰るときに、場内に設置した回収ボックスに入れてもらうのです」
この事業は、カイロのメーカーにもメリットがあるという。
「製造工程で発生する廃棄物が、年間100トンほど出るそうです。産業廃棄物として処理しなければならないので、それなりに経費がかかります。質的には使い捨てカイロの中身と同じなので、それを提供してもらうことにもなっています」
メーカーにとっては、処理にかかっていたコストがゼロになるだけでなく、廃棄物を有効に再利用してもらえるわけだ。
一般の人からの提供も受け付けている。使い終わったカイロの空気を軽く抜いた状態で袋に保管し、あるていど数がたまったら下記あてに送ってほしいと、協力を呼びかけている。
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▼使用済みカイロの送り先
〒679-0313 兵庫県西脇市黒田庄町岡684-1
GoGreen 物流センター
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▼GoGreenGroup 株式会社WEBサイト