一日の疲れを洗い流してくれるシャワータイム。お湯でも気持ちいいのに、もちもちフワフワの極上の泡に包まれたなら…。想像するだけでうっとりと異世界に行ってしまうような、夢のシャワーが誕生したという。もとになったのは、阪神・淡路大震災を機に開発された最新型消防車の技術。消防と浴室、確かに「水つながり」だが、絶対に出会うことはなさそうな組み合わせが生んだ驚きの新商品の開発の舞台裏を取材した。
シャワーはその名も「KINUAMI(絹浴み)」。水栓とつないだ本体に天然シルク由来成分を配合した専用のトリートメント剤を入れ、浴室外のコンプレッサーから圧縮した空気を送り込むことで、専用シャワーヘッドから絹のようになめらかな泡が放射される。手で泡立てたのとは比べものにならないほど濃密で体にとどまり、まるで白いまゆに包まれているような。本体のレバーで通常のシャワーに切り替えられ、簡単に洗い流せるという。
3月下旬から1台4万3000円、限定100台でクラウドファンディングを始めたところ、わずか2週間余りで達成し(売り切れ)た。
開発したのは、消防車の国内最大手モリタグループで消火器などを手掛ける「モリタ宮田工業」(東京都)と、リクシルの100%子会社で洗面台などを製造するニットーセラ(愛知県常滑市)。その出会いは、2年前の「国際福祉機器展」にさかのぼる。
モリタグループでは、消防車のほかに訪問介護用の車も手掛ける。その現場で「体が不自由な方の入浴や洗体は非常に大変」という話を聞き、「もし消防車の技術を生かして泡のシャワーができれば負担も軽くなるのでは」と2016年から取り組み始めた。
火を泡で消す最新型消防車は、1995年の阪神・淡路大震災で、消火栓や水道管などが破損し、水源確保が困難を極めた苦い経験をもとに開発された。水に高圧の空気を送り込んで泡にし、吹き付ける。空気を遮断して冷却し、効果的に消火できる上、水量は従来の10分の1以下になり、水圧が低くても対応可能。消火作業で家が水浸しになる二次被害も抑えられるとして、2007年の発売以来、全国で約1900台が納入されている。