「バイオ」「米経済」「水素」…関連銘柄で読み解く2021年の株式相場

山本 学 山本 学

 2021年の株式相場は、日米ともに大方の予想に反して軟調にスタートした。特に米株式市場ではハイテク株が大幅安と、ちょっとした波乱の幕開けになった。もともと今年の株式相場には上昇期待が大きかった。世界の中央銀行は現在の超強力な金融緩和を長期間、継続すると表明しており、株式市場への流入が見込める資金は潤沢だ。加えて、世界最大の消費市場である米国の景気は上向く見通し。製造業が多い日本の上場会社の収益も回復することだろう。だが初日の株式相場が示したのは、金融緩和と業績改善でも、単純に上ばかり見られないということだ。

 今年の株式相場のリスク要因を3つ挙げるとすれば、おおむね「新型コロナウイルス」「米国の景気動向」「ESG投資からの資金流出」に集約できそうだ。新型コロナは景気全体を冷やす材料とされる一方で、巣ごもり消費や在宅勤務に適応した企業の追い風になった。加えて米国の景気回復は、昨年3〜4月の相場急落の際に下落した景気敏感株がコロナ前の水準に戻すには必須だろう。さらに、ここ数年で一段と普及したESG投資が株高の中で再検討される可能性が残る。資金流入が止まったときが正念場だ。

 それぞれのリスク要因を見極めるには、とにかく関連銘柄の値動きに注目することだろう。株価はあらゆる材料を織り込んで形成されるからだ。新型コロナの関連銘柄といえば、やはり医薬品や創薬ベンチャーといったバイオ関連株が筆頭格。米国の上場会社ではファイザーやモデルナ、英市場ではアストラゼネカなどが新型コロナのワクチンを開発・製造している。米ダウ工業株30種平均が過去最高値圏、日経平均株価が30年ぶり高値圏といった株高は、ワクチン開発による経済活動の正常化を前提にしているので、こうした銘柄が失速すれば、「何かが起きた」ということを察知する手がかりになるだろう。

 国内ではアンジェス(証券コード4563)や塩野義製薬(4507)がワクチンの開発を進めており、現在は臨床試験を実施中だ。このほか、がん治療薬オプジーボで注目された小野薬品工業(4528)は、既存の医薬品を新型コロナの治療薬に転用する開発を進めている。これらの銘柄は先行するファイザーやモデルナなどと競合するとはいえ、いまのところ値動きの方向性はおおむね同じ。特に新型コロナ以外の株価材料が少ないアンジェスは、経済の正常化に対する期待が継続しているかを見極める指標になりやすいといえる。

 米国の景気動向を映す日本株というと、トヨタ自動車(7203)やホンダ(7267)などの自動車株や、タイヤのブリヂストン(5108)といった自動車関連になりそうだ。自動車の2大市場である米国と中国のうち、中国はひとまず需要回復が確認できた。今後の焦点は米国で自動車の需要が回復するかどうか。中長期的な流れとしては電気自動車(EV)化や、ネットワーク社会によって移動そのものの必要性が薄れるといった話もあるが、目先の自動車の需要は、経済を元に戻そうとする力が働いているかどうかを見極めるのに自動車株の値動きが使えるというわけだ。

 昨年の3〜4月、欧米でロックダウン(都市封鎖)が相次いだとき、食料品を購入する以外の外出を禁じるケースが多かった。このためトラックなど貨物車を使った企業間の物流は維持された一方で、個人が外出する際に使う乗用車の需要が大きく減少した。だから、とりわけ乗用車の需要回復が持続するかが自動車株のキーになるとみられるし、経済の正常化が進んでいるかを見極めるためのベンチマークになるだろう。

 一方でESG投資は、資金流入が今後も続くのかという問題だ。ESGのEに当たる環境問題では、最近でも「温酸化対策」「カーボンフリー」などが株式市場のテーマになり、関係しそうな銘柄を探しては物色していくという資金の循環が見て取れる。足元では川崎重工業(7012)や岩谷産業(8088)、三菱化工機(6331)、宮入バルブ製作所(6495)、那須電機鉄工(5922)といった、燃やしても二酸化炭素が出ない水素の関連株が人気化した。ただ、こうした新技術はこれから実証実験といった段階で、キャッシュを稼ぎ出すのは数年〜10年先といったものがほどんどだ。うまくいった未来を想定して買いを入れる、理想買いの域出ない銘柄が多い。

 実際に二酸化炭素の排出抑制が温暖化を食い止めるという成果につながるまでには、長い期間がかかる。そのうえ仮に地球の平均気温が下がったとして、下がったのを把握するのにも、下がった要因を推定するのにも、最低でも年単位の時間が必要だろう。もともと環境関連はゴールの見えにくい投資だ。「反ESG」を積極的に掲げる会社などないなかで、米景気の回復で顕著に収益が改善する銘柄に投資資金が一斉にシフトするなら、ESG投資に金額的な目標を掲げて投資している機関投資家が大きな損失を抱えるといった混乱につながるタネになる。

 成長はすべてを癒やすとはよく言ったものだが、相場全体が期待通り上昇するなら、そうした懸念も心配の必要はない。ただ繰り返しになるが、米株は過去最高値圏、日本株もバブル期以来という30年ぶりの高値圏だ。「高値警戒感」の5文字が常にちらつくことには違いない。「何かあったとき」にどうやって気づくのか、その時にどう逃げるのかは意識しておいて悪くないだろう。相場が出直るときに下値を拾うためにも必要だ。

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