「Zoom」だと思って買ったのに…違う「ズーム」だった? 株式投資の初心者に落とし穴「同名別会社」

山本 学 山本 学

 「ズーム」といえば、もはやテレビ会議システムの代名詞になったのではないか。特に新型コロナウイルスの感染拡大を受けた日本の緊急事態宣言や、海外の都市封鎖(ロックダウン)などでビジネスに欠かせないツールとして一気に広まった。いろんな会社が無料で使えるテレビ会議システムを提供しているが、ズームよりも歴史のあるテレビ会議システムまでも「ズームみたいなやつ」で片付けられるほど普及した感がある。

 そんなわけで、ここ数カ月の間に「ズームの株を買いたい」と思った人もいて当然だろう。ズームは正式な会社名をズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(Zoom Video Communications)という。エリック・ヤンという中国系米国人が米国で2011年に設立した。株式は、多くのハイテク企業が上場する米ナスダック市場で2019年4月に新規公開。株式取引の際に使う同社を示す記号(チッカーシンボル)は「ZM」だ。

 ただ、日本の投資家にとってはちょっとした落とし穴があった。日本にも「ズーム」という名の上場銘柄があったからだ。日本のズームは、東証ジャスダックに上場する音響機器メーカー(証券コードは6694)。エレキギターに触れたことのある人なら多くは知っている会社で、ギターの音にホールで演奏したような残響音(リバーブ)を付けるといった空間系の音声信号の加工機器(エフェクター)では有名だ。しかし足元の「ズーム」人気で、間違って日本のズーム株を買ってしまう人が相次いだ。日本のズームのホームページには「当社はビデオ会議サービスを運営する米国の『Zoom Video Communications, Inc』とは一切関係ありません」と注意喚起が掲げられた。

 ちなみに、米ナスダック市場では6月4日に、新たに「ズームインフォ・テクノロジーズ」(Zoominfo Technologies、チッカーシンボルは「ZI」)という会社が株式を新規公開した。ウェブベースで顧客管理サービスを提供する、いわゆる「SaaS」の会社だ。もちろんテレビ会議のズームとは別会社だが、すでに日本でも一部の証券会社で売買ができるようになっている。ズームの普及を機に米国株も買ってみようかという初心者は、一段と注意が必要になりそうだ。

 ところで日米で会社名を混同する今回のようなケースは多くないにしても、同名別会社によるちょっとした混乱は株式市場の周辺で結構起きている。比較的最近で目立ったのは「グミ」の例だ。2014年12月に東証マザーズに上場した「gumi」(現在は東証1部、証券コード3903)は上場直後から株価が大幅に下げていた。それに関する問い合わせが、同名別会社で非上場であるデジタルコンテンツ制作の「グミ」(東京都渋谷区)に殺到。同社は「弊社は上場しているゲーム会社のグミではありません」と注意喚起をホームページに掲載した。

 上場会社の間でも銘柄名が類似しているケースは少なくない。企業向けプロモーション支援のアクセスグループ・ホールディングス(証券コード7042)と、携帯電話向けブラウザのACCESS(証券コード4813)は間違いやすい銘柄として証券業界ではよく知られる。以前は、携帯電話のソフトバンク(証券コード9434)の前身会社の1つである「イー・アクセス」も上場していたので、かなりややこしかった。このソフトバンクと親会社のソフトバンクグループ(証券コード9984)だって、親子上場の問題以前に銘柄名がまぎらわしいのは、ぜひなんとかしてほしい。

 東証マザーズで新規公開した2005年12月8日に大規模な誤発注があり、そのスキを突いて若いデイトレーダーが大金を手にしたことで話題になったのは「ジェイコム」(現在の「ライク」、証券コード2462)だ。その直後には、当時のジャスダック市場に上場していたケーブルテレビの「ジュピターテレコム」(現在は非上場)に問い合わせが殺到したという。略称が「JCOM」つまり発音がジェイコムだったからだ。これはJCOMがKDDIなどに買収されて非上場に、ジェイコムは社名変更したことで解決した。

 古くからの上場銘柄ではベアリング最大手の日本精工(証券コード6471)と鋳鍛鋼の日本製鋼所(証券コード5631)、アンチモン化合物を製造する日本精鉱(証券コード5729)は、いずれも新聞の相場欄に掲載される略称が「ニッセイコウ」という読み方になる。証券業界では日本精工には精の字のコメへんから「コメコウ」、日本製鋼所は米アームストロング社が設立時に出資した経緯から「アーム」、日本精鉱はアンチモンの俗称ボロンコウから「ボロコウ」と呼んで、電話などでの混同を避けている。

 コメコウやアームは業界用語で一般的には使いにくいし、定着するには時間がかかる。では初心者は、どのようにこうした混乱を回避するか。その方法で最も確実なのは証券コード、米国株ならチッカーシンボルをしっかり確認することだろう。グミのように非上場の会社なら混同しても誤って別会社の株を買ってしまうことはないが、自分が買いたい株に似た名前の会社がないとも限らない。誤って別の会社の株を買ってしまわないためには、重複しないように付けてある証券コードと事業内容をよく確認するのが第一だ。

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