FM802の人気DJが落語に挑戦、繁昌亭の高座に トータス松本の言葉が背中押す

杉田 康人 杉田 康人

大阪で聴取率ナンバーワンを誇るラジオ局、FM802のDJ・樋口大喜さん(29)が、落語に挑戦する。1月19日に、大阪市の天満天神繁昌亭の夜席「電波寄席」で、落語家の桂あおば(32)、桂りょうば(48)らに混じり高座へ。スタジオのマイクの前から座布団の上に舞台を移し、上方落語の「時うどん」を披露する。

樋口さんは、関西大法学部在学中の2014年に同局のオーディションに合格。現在「RADIO∞INFINITY」(木曜、深夜0・00)や「802DINOSAUR」(金曜、深夜3・00)を担当している。ミュージシャンとの交遊が広く、イベント司会などでも活躍する人気DJ。ウルフルズのトータス松本(54)の言葉に背中を押され、出ばやしに乗って登場することになった。

昨年夏、落語好きで知られるトータスから話の流れで「落語とかやったらええんちゃう?弟子入りでもしてみたら?」とアドバイスを受けた。樋口さんも「いいっすね」と二つ返事で即答。関係者から、落語を教えてもらう師匠として、あおばを紹介されたという。

あおばから「落語は練習せなうまくならへんで。高座に上がらないとあかんねん」と促された。公民館や店の一角で初披露…かと思いきや、あおばは「繁昌亭が空いているけど、いきなり立つか?」と即決。FM802のスタジオがある大阪・南森町の〝上方落語の聖地〟で、初舞台が決まった。

ラジオDJになる前から、故・桂枝雀さんの落語に触れていたという樋口さん。いきなり決まった大舞台にビビりながらも「スイッチが入った。どれだけの重み、どれほどのことなのかわからないが、とりあえずやったれと思いました」と目前に迫った本番に向け、稽古に励んでいる。

ネタは約13分間。DJの顔が見えないラジオと違い、観客の注目は演者に集まる。あおばは「言葉はおなかから出した方がいい。腹の中にないと出てこない」と厳しく指導する。

樋口さんは「落語をやり出してから、ラジオに似ていると感じた。いかに想像させるかが重要。どういうシーンを頭の中に描かせるか。ラジオでも生かせるという相互作用が、新しい発見」。番組中に、思わず落語の口調が出てしまうこともある。

ラジオの師匠で、関西DJ界の大御所・ヒロ寺平(69)に落語挑戦を報告したところ「これまでちゃんと続いたものがあるんか?いっちょかみ(何にでも首を突っ込む人)にやったらあかんで」とクギを刺された。あおばも「一発やって終わりじゃなくて、定期的にやろう」と、継続参戦を呼びかける。19日の高座では、落語とラジオの師匠に猛練習の成果を見せるつもりだ。

「ふつうだったら、こういう話にならなかった。ライブで忙殺される日々が続いていた」と振り返る樋口さん。コロナ禍で音楽イベントが軒並み中止に。ライフワークでもある積極的なライブ取材ができなくなり、自分と向き合う時間が長くなった。

新しいことに挑戦していかないと、次につながらない―自問自答する日々が続いた。「自分が何者か、わかってしまう瞬間があった。何者にも形容されない自分というか…ラジオDJって結局何もない人間で、ここで止まってしまうんじゃないか?という先の不安にかられた」。落語への挑戦を促したトータス松本の言葉は、渡りに船だった。

唐突ともいえるラジオDJの落語挑戦。周囲の反応はさまざまだが、新しい分野に挑む姿勢を称賛する意見が番組の聴取者から届いた。「新しいことをやります。ここからがスタートライン。うけなくても、続けるということだけは宣言します」と樋口さん。うどん代の勘定のように、自身の思いにごまかしは利かなかった。

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