経済格差、少子高齢化、非正規雇用、ブラック企業…といったキーワードを背景に、日本社会で若年層の貧困化が指摘されている。さまざまな職種の中から「お笑い芸人」にスポットを当て、「芸人になって体験した悲惨な出来事」というお題を出して彼らの切実な“叫び”を聞いた。
オフィス北野の元社員が今夏に立ち上げた芸能事務所「ラフィーネプロモーション」が主催する11月のライブ。事前に十数人の体験談を吟味し、記者が選んだ4人がステージに上がった。意外性のある展開や、芸人ゆえの哀しさが表裏一体となった面白さという点で最も印象的だったのは、オオタケハルカというピン芸人だった。
オオタケの証言※本名の「大嶽遥」でライトノベルも書いている芸歴6年の30歳。
付き合っていた女性の親が厳しい人で、収入がしっかりしないと交際は認めないと言われていた。仕方なく、彼女には「俺は今でこそ売れてないが、才能がめちゃくちゃあってライブでもウケにウケている。売れるのは時間の問題だ」と嘘をついて交際を続けた。
2年近くたったある日、彼女から突然別れを告げてきた。3日ほどして彼女の母親から手紙が届いた。中には明細書と報告書も入っていた。母親が興信所を使い、探偵がライブを見に来ていたらしい。報告書には探偵から「フリが弱い」といったダメ出しが長々と書かれ、米印付きで「声が大きい」というフォローもあったが、最後に「売れる見込みなし」と締められていた。
母親からの手紙には「あなたが『すぐに売れる』のなら、これくらいの費用は払ってください」という金額が書いてあり、2年かけて返済することに。今考えると、探偵のチケット代まで僕が負担して、散々ダメ出しされていたことになる。