「マスクが売れてるからっていい気になるな」「菌がうつるから近寄るな」「汚い手で触るな」。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、スーパーマーケットやドラッグストアなどで働く人たちに投げつけられた言葉だ。流通・サービス業の産業別労働組合「UAゼンセン」がまとめた調査結果から、5人に1人がカスタマーハラスメント(カスハラ)の被害者という深刻な一端が明らかになった。悪質クレームや嫌がらせは、コロナ禍で疲弊した人を深く傷つける。サービスの提供側と受け取る側が対等であるため、もうお客さまは神様じゃない―。
UAゼンセンが、流通、小売、飲食、サービス業などで働く組合員を対象に、2020年7~9月に実施。233組合から26927人の回答があった。新型コロナ関連の迷惑行為を受けたと答えたのは5477人で、全体の5人に1人になる。UAゼンセンは「コロナ禍でカスハラは増加傾向にある」と結論付け、法整備を訴えた。
調査結果によると、56.7%(15256人)が「直近2年以内に迷惑行為(カスハラ)があった」と答え、その行為がコロナに関係するのは35.9%(5477人)だった。業種の上位は、ドラッグストア関連、スーパーマーケット、GMS(総合スーパー)だった。
■男性、50代、不満のはけ口、対面
調査結果からは、悪質なクレーマー像が見えてくる。男性が74.8%を占め、年代では50歳代(30.8%)、60歳代(28.0%)が突出している。カスハラのきっかけは、不満のはけ口や勘違いなど、客側に問題があるのは48.3%で、接客やサービスのミスや商品の欠陥など提供側に問題があるのは、34.2%だった。
調査結果にはコロナカスハラの事例も記されており、一部を抜粋する。
・「遠くから来たのにマスクがない!あなた達は自分の分は確保しているのだろう。何時のトラックで、荷物は来るのか!隠しているのなら、早く出しなさい!」といつまでも叱責された。(GMS)
・新型コロナウイルス感染予防のため、お客さまのお買い上げいただいた商品の袋詰めをお断りしたら、暴言を吐かれすごく怖い思いをして、毎回そのお客さまの来店の際には心臓がドキドキした。(ドラッグ関連)
・一度口に入れた料理をおしぼりに吐き出し、そのおしぼりを下げろと強要し更には「は
い、コロナコロナ」と発言(居酒屋)
・来店するも遊技はせずに、休業要請を強く言われた。店内に唾を吐いて帰るなど嫌がらせが発生(パチンコ)
迷惑行為への対応(複数回答)で多かったのは「謝りつづけた」(44.4%)、「上司に引き継いだ」(35.6%)、「毅然と対応した」(33.1%)。少数ながら、「危険を感じて退避した」(2.5%)が388人いた。こうした行為への企業側の対策(複数回答)では、「特になされていない」(43.4%)、「マニュアルの整備」(27.9%)、「専門部署の設置」(23.5%)が上位で、「被害者へのケア」は8.8%にとどまった。迷惑行為を受けた人の心身への影響については、不快感だけでなく、不安な気持ちが続いたり、寝不足を訴えたり心療内科を受診したりする人もいた。
■あらためて啓発動画を
UAゼンセンのサイトには啓発動画がアップされている。昨年公開されたもので、ドラマのような内容が話題になった。
動画はスーパーの店内の場面から始まる。平謝りの男性従業員と彼を怒鳴りつける女性客。終業後、「お疲れさん」と同僚から肩をぽんとねぎらわれるが、「今日みたいなことは初めてじゃない」と男性の表情は晴れない。暴言と怒りに満ちた客の形相がフラッシュバックする。
帰り道、うつむき加減で歩く男性は、「パパ、お帰り」の声に視線を上げる。娘と妻だ。「パパ、お仕事楽しかった?」「うーん、忘れちゃった」「ええー、忘れちゃったの?」。たわいないやり取りの後、手をつないだ親子3人の後ろ姿に、「僕にも家族がいて、人生があります。」のメッセージが重なる。
UAゼンセンの広報担当者は「消費者が意見を伝えることは大切ですが、悪質なクレームはサービスを提供する側を傷つけます。迷惑行為に苦しむ従業員は動画の中だけではありません。コロナ禍社会において、『感染するかもしれない』という不安を抱えながらサービス業に従事する人が大勢います。お互いがお互いを尊重する社会であってほしい」とコメントした。
■カスハラ調査結果はUAゼンセンのサイトで→ https://uazensen.jp/