肉食の猛獣から草食動物まで、さまざまな生き物を飼育して展示する動物園。そこで働く人たちが使う用語には、別の意味に間違えてしまいそうなものもある。動物園で接客案内係の経験があるIさんに聞いた。
小動物から猛獣まで数え方の単位はなんでも「頭」で統一
「ライオン、トラ、シマウマのように、大型の動物は一般的に『1頭、2頭』と数えますね。逆に小型の動物は『1匹、2匹』、鳥は『1羽、2羽』と、種類によって数え方が違うでしょ。でも動物園では、種類にかかわらず『1頭、2頭』と数えるんです」
これは初耳。ライオンが1頭なら、ネズミも鳥も1頭なのだそうだ。
「もちろん、日本語的にどうかというより、あくまで仕事中の業界用語としての数え方です」
「動物の子供は『ひとつ、ふたつ』と、物みたいに数えます」
和歌山県白浜町にあるアドベンチャーワールドで先日、ジャイアントパンダの赤ちゃんが生まれた。ニュースでは「17頭目の赤ちゃん誕生」と報じられているが、飼育員のあいだでは「17つめが生まれた」といわれているのだろうか。
「すべての動物園が同じではないので分かりませんが、そう呼んでいても違和感はありません」
「この子は今BL中なの」といってもアレのことではありません
「動物園には『BL』という制度があります」
当たり前だがBoys Loveのことではない。ブリーディングローン(Bleeding Loan)を略して「BL」という。
「日本語では『繁殖貸与契約』っていいます。繁殖を目的として、一定の期間ほかの動物園から動物を借りたり、逆に貸し出したりすることです。無事にご懐妊となったら、もといた動物園へ返されます」
一時的に移動するだけなので、動物の所有権はもとの動物園のままである。
「多摩動物園のユキヒョウとか上野動物園のゴリラなどは、この方法で繁殖に成功していますし、アドベンチャーワールドのジャイアントパンダは中国の繁育研究基地とのあいだでブリーディングローンを利用していますね」
余談ながら、よく「この個体は……」とか「個体差」などという言葉を聞かないだろうか。液体・気体の「固体」ではなく、個性の「個」と書く「個体」である。
動物1体を指す言葉で、人間なら「個人」のこと。動物にも当然それぞれ個性があり、性格も異なるから、個体ごとに管理される。
動物の住環境に関する用語
最後に、動物の住環境に関する用語を3つご紹介しよう。
「開園中に動物が出ているスペースを『放飼場(ほうしじょう)』といいます」
放し飼いの状態ではないものの、夜間に入ってもらう檻と比べたら開放された場所ということらしい。いわば開園中の、動物たちの仕事場ともいえる。
そして最近では、動物が本来生息している場所に近い環境を再現したり、エサの在処を自分で探させたりして、いうなれば「野生動物としての自覚(?)」を呼び覚まし、飼われているストレスを軽減しようという取り組みが盛んにおこなわれている。
「そのように、動物たちの暮らしを改善していこうとすることを『エンリッチメント』といいます」
◇ ◇
「これは用語というより、隠語的ですが『鳥屋(とや)』という言葉があります」
鳥は季節の変わり目に、羽根が生え変わる「換羽(かんう)」がある。この「換羽」のことを「鳥屋」と呼ぶ年配の飼育員がいるという。
「由来は鷹匠さんの用語らしいです。換羽期の鷹を鳥小屋に入れておいたことから、換羽のことを、鳥小屋を意味する『鳥屋』と呼ぶようになったといわれています」
もっとも最近では、ほぼ死語になっているそうだ。