トリマーは犬の美容師といわれ、さまざまな犬種のお手入れをする専門職だ。お手入れ方法は多岐にわたり、それぞれ独特のいい方がある。トリマーとして働くEさんに聞く。
「オーバーコート」「アンダーコート」って、まるで防寒着の種類みたい。
「コートといっても、人間が着る防寒着のことじゃありません。犬の『被毛(ひもう)』は上毛と下毛があって、上毛を『オーバーコート』、下毛を『アンダーコート』といいます」
つまり、体の表面を覆っている毛が「オーバーコート」で毛質がしっかりしており、体の表面を保護する役割がある。「アンダーコート」は保温と保湿の役目があって、オーバーコートの下に生えている。春と秋の換毛期に大量に抜け落ちるのが、このアンダーコートだ。
「ちなみに、オーバーコートとアンダーコートの両方ある被毛のことを『ダブルコート』といいます」
ということは「シングルコート」もあるということ?
「オーバーコートだけの犬種もいます。たとえばプードル、ヨークシャーテリア、マルチーズ、パピヨンなどです。アンダーコートがないので抜け毛をあんまり気にしなくていいのですが、保温性がよくないです。だから寒い時季には服を着せて、防寒対策をしてあげたほうがいいです」
よくプードルとかヨークシャーテリアに服を着せて散歩させている人を見かけて、てっきり飼い主の自己満足だと思っていた。あれは愛犬に寒い思いをさせないようにという、飼い主の愛情だったのだ。
「そうですね、オーバーコートだけでは寒いですから」
トリミングとグルーミングは違う?
「トリミング」と「グルーミング」。どちらも聞いたことがある言葉だけれど、具体的にどう違うかと訊かれたら正しく説明しづらい。
「犬のお手入れ全般を指して一般的に『トリミング』といいますね。間違ってはいないけど、正確には違います」
「トリミング」の本来の意味を一言で説明すると「毛をカットすること」だという。
「ハサミ、バリカン、専用のナイフなどを使って、被毛を整えることを『トリミング』といいます」
シャンプーしたり爪を切ったり、お手入れ全体のことは「グルーミング」というそうだ。
「犬のお手入れをする人のことも、日本以外の国では『トリマー』とは呼ばず『グルーマー』と呼びます」
なぜか、ほとんどの用語が「~ing」。
トリマーが使う用語のほとんどが、いわゆる現在進行形、つまり「~ing」がつく言葉になっている。
「いわれてみれば、そうですね。なんでそうなったのか、理由はよくわかりませんが(笑)」
ざっと挙げると――
・シザーリング……ハサミで被毛をカットすること。
・ブラッシング……ブラシやスリッカーという用具を使って被毛を整え、汚れや毛玉を取り除く。
・コーミング……「ブラッシング」をした後、櫛で毛並みを整える。
・シャンピング……被毛をシャンプーで洗うこと。
・リンシング……「シャンピング」した後に、薄めたリンスを被毛にかけること。
※「シャンピング」と「リンシング」を合わせて「ベーシング」とか「ベイジング」とも呼ぶ。
・タウェリング……「ベーシング」した後、濡れている被毛をタオルで拭くこと。
・ドライング……「タウェリング」で取り切れない水分をドライヤーで乾かすこと。
「ほかにもたくさんありますが、珍しい用語だと『ラッピング』なんていうのもあります」
言葉の意味からすると、何かを包むのだろうか?
「毛の長い犬種の被毛がもつれるのを防いだりリボンをつけたりするときに、被毛を少しずつ分けて束ねて『ラッピングペーパー』とか『セッティングペーパー』と呼ばれる専用の紙に包むのです」
言葉だけの説明だと簡単そうに聞こえるが、相手は生き物。新人トリマーだと、なかなか大変そうだ。