冬のインフルエンザと新型コロナウイルスの同時流行が懸念される中、「かかりつけ医」など身近な医療機関が発熱患者の検査や診療を担う体制を目指し、厚生労働省が導入した補助金制度について、神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」に疑問の声が寄せられた。患者を多く診療するほど医療機関への補助金が減る仕組みになっており、「頑張るほど損をするのでは」というわけだ。一体どんな制度なのか。関係者らに取材した。(霍見真一郎)
「インフルエンザ流行期における発熱外来診療体制確保支援補助金」。厚労省が各都道府県知事に出した通知などによると、仕組みはこうだ。
補助金が交付されるのは、各都道府県が「診療・検査医療機関」(仮称)に指定した医療機関。申請して指定を受けるには、発熱患者専用の診察室(プレハブやテントなど含む)を設けたり、診察時間を限定したりし、一般患者との分離対策を取る必要がある。発熱患者を1日に何時間、何人受け入れるかも、あらかじめ想定して決めておく。
補助金額は、実際に診療した発熱患者の数に応じて決まる。また発熱患者専用の診察室一つにつき、1日当たり最大7時間、患者20人が上限となる(かかりつけの患者のみに対応する場合は上限2時間、5人)。
ここからがより複雑だ。例えば、医療機関に来診した1日平均(最大7時間)の発熱患者が想定(同20人)を下回った場合、1人下回るごとに1万3447円が交付される。診察した患者でなく、診察しなかった患者分が交付されるのだ。
患者1人だった場合の補助金は、19人分の25万5493円。患者0人でも20人分の半額(13万4470円)が交付される。一方、患者を20人以上受け入れると、補助金は0円になる。
ツイッターでも、医療関係者らから「理解できない」「どんな発想なの」と戸惑いの声が上がる。
一方、神戸市内で診療所長を務める60代男性医師は「発熱患者の診療報酬が、補助金の減額分を上回るのは確実なので、損はしない」と指摘。「そもそも損得勘定で診察するものではない」とも付け加える。
兵庫県感染症対策課は「頑張っている診療所への奨励金ではなく、診療体制を整えているのに患者が来なかった場合の補償」と説明。厚労省結核感染症課も「患者が来なかった場合の損失補填的な意味合いが大きい」とし、補助金にも「外来診療・検査体制確保料」との名称を付けている。
しかし、コロナ禍で経営が悪化した医療機関も多い中、体制を整えず受診を断る一方で補助を受けるなど、悪用の恐れはないのか。
県感染症対策課によると、診療・検査医療機関は患者受け入れ体制などを書面で確認した上で指定。「困難を伴う診療に協力してくれる医療機関であり、適切に申請されると考える」。ただ今のところ、兵庫県内で指定された機関はない。冬場の診療・検査体制を整えるための制度だが、まだ効果は見えない。
神戸市医師会の置塩隆会長は「小さな診療所が普段の患者を見ながら、同時に防護具を着て発熱患者を見るのは難しく、多くは申請もできないはず。発熱患者を(上限の)1日20人も受けられるのは病院などに限られるのではないか」とする。
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