何を演じても品がある!稲垣吾郎はまるでマストロヤンニ 「ばるぼら」手塚眞監督インタビュー

黒川 裕生 黒川 裕生

数ある手塚治虫作品の中でもカルト的な人気を誇る「ばるぼら」を、実子である映画監督の手塚眞が同タイトルで実写映画化した。耽美派小説家の美倉洋介役に稲垣吾郎、謎めいた少女ばるぼら役に二階堂ふみを迎え、原作が持つ摩訶不思議でエロティックな魅力を生かしながら、新たな命を吹き込んでみせた。11月20日から全国公開されるのに先立ち、「昔から『ばるぼら』が妙に好きだった」という手塚眞監督に、父の漫画を初めて実写映画化した経緯や、主演2人の印象などについて聞いた。

手塚治虫本人がモデル?「ばるぼら」とは

原作は「ビッグコミック」(小学館)で1973年から74年にかけて連載された“大人向け”漫画。異常性欲に悩む美倉と、新宿の片隅で生きるミューズ・ばるぼらが織り成す愛と苦悩に満ちた幻想物語だ。「人間に潜む変態性」や「芸術と大衆娯楽への葛藤」なども重要なモチーフになっており、連載当時から美倉のモデルは手塚治虫本人ではないかと言われていた“曰く付き”の作品でもある。

「父の漫画でどれが一番好きかと人からよく質問されるんですよ。どれも好きだからはっきりと答えられたことはないんですが、それでも気がついたらいつも頭の端っこに浮かんでいるのがこの『ばるぼら』。『火の鳥』や『ブラック・ジャック』のような有名な作品ではなく、むしろ変わり種です。でも不思議なことに、僕はそんな『ばるぼら』のことが昔からずっと好きだったんです」

原作についてそう語る手塚眞監督は、学生時代から独自の映像世界で注目を集めてきた。1999年には「白痴」がヴェネチア国際映画祭でデジタル・アワードを受賞するなど、気鋭のヴィジュアリスト/映画監督として国内外で知られる存在に。手塚治虫関連の仕事にも積極的に携わっており、映画「ばるぼら」の制作発表は2018年、手塚治虫の生誕90周年を祝うパーティーの席上で行われた。

とはいえ、もともと「ばるぼら」の映画化ありきの企画ではなかったという。

「次の映画は大人向けのシンプルなストーリーで、なおかつ男女のエロティックな行為もきちんと撮りたいと考えていたんです。そこでふと思い出したのが『ばるぼら』でした。もちろん『ばるぼら』はエロスだけではなく、芸術論やオカルト話などいろんな要素が入り混じっていますが、そこが(父の作品だけど)むしろ僕の作品らしい。今やりたいテーマにぴったりだと思いました」

稲垣吾郎はまるでマストロヤンニ

美倉を演じた稲垣とは初顔合わせ。「仕事がすごくやりやすかった」という。

「彼は聡明なので、理解が早い。原作も読み込んだ上で、本作の美倉というキャラクター、自分がそれを演じることの意味をしっかり理解して表現してくれました。間違いのない人、安心して任せられる俳優さんだと感じました」

「それに稲垣さんって、どんな役を演じても品があるんですよ。僕が子供の頃に見ていたヨーロッパ映画のスターにも通じる、品。タイプは少し違うんだけど、例えばマルチェロ・マストロヤンニのような。『白痴』に主演してくれた浅野忠信さんなんかもそうですよね。役の幅が広く、品がある。僕はやっぱりそういう俳優が好きですね。ご一緒できてよかったと思っています」

「理想的な俳優」二階堂ふみには驚きと感謝を

同じく「初めまして」だった二階堂も、監督の思いに文字通り全身で応えてくれた。

「期待以上!驚きと感謝です。彼女は見た目や演技はもちろん、現場での振る舞いも本当に素敵で、僕にとっては理想的な俳優さんでした。何とも言えない現実離れした雰囲気もあり、途中から本当のばるぼらと話しているような錯覚を覚えたほど(笑)。仕事をしていてゾクゾクしましたね。褒め言葉として言うんですけど、彼女はものすごく“化けられる”人だという印象を受けました」

撮影監督はクリストファー・ドイル。ウォン・カーウァイ映画の映像美で知られる名匠は、稲垣と二階堂のラブシーンを美しく仕上げ、手塚監督を喜ばせた。

「そこは表現として極めたかった部分ですし、自分でも上手くできたと思っています。『白痴』はクライマックスにすごい空襲があり、僕はあそこで、これでもか、と火を見せたかった。それと同じで、今回はこれでもかというくらいラブシーンを見せたかった。でも、よくある隠微でベタベタした“濡れ場”という感じは個人的には好きではありません。クリストファー・ドイルを起用した理由ははまさにそこで、2人の男女をどこまでも美しく撮る、そして背景にある街すらもセクシーに撮ることができるカメラマンだと思ったからなのです」

「ばるぼら」は今の自分に一番ふさわしい作品

ずっと好きだった原作を実写映画化したことで、改めて見えてきたことはあるのだろうか。

「見えてきたというより、自分がこれまでやってきたことがかなり整理されてきたという手応えを感じています。理知的・説明的に見せられるものと、全く説明できない不思議な要素が混在する感じとでも言いましょうか。『ドラマとアートの融合』という下世話な言い方もできますが、そういう単純なことではなくて、『言葉や理性を超えたものを映像を使って表現したい』という自分の欲求と、その一方で『非常に批判的に物事を見て、言うべきメッセージを明確に示していたりする』という部分をどうすればうまく両立させることができるか。僕が一貫して追い求めてきたテーマが、物語という形になったのが『ばるぼら』。今の自分に一番ふさわしい作品を映画にできたと思います」

映画「ばるぼら」は11月20日から全国公開。

公式サイト https://barbara-themovie.com/

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「ばるぼら」公開と「白痴」公開20年を記念して、大阪のシネ・ヌーヴォでは10月31日から11月13日まで、「手塚眞監督特集」を実施。11月3日、4日には手塚監督のトークショーや舞台挨拶がある。また10月30日から11月5日に宝塚市のシネ・ピピアで開催される宝塚映画祭では、「ばるぼら」をプレミア上映する(11月3日15時)。こちらも手塚監督の舞台挨拶を予定している。

■シネ・ヌーヴォの特集ページ

http://www.cinenouveau.com/sakuhin/tedukamakoto/tedukamakoto.html

■第21回宝塚映画祭 http://takarazukaeigasai.com/

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