側溝の中にいた子猫は、一見してそれと分かるほど下半身が動かなかった。Aさんは、保護した日から圧迫排泄をしなければならず、悪戦苦闘した。ハンディにもめげず、成長とともに先住猫と遊んだり、ケンカしたりするほど元気になった。
下半身が動かない子猫
大阪府に住むAさんの自宅横の側溝は、鉄板で簡易的に蓋をしてあった。しかし、2011年6月24日、隙間から雌猫が頭を突っ込んで中をのぞいていた。Aさんが不思議に思って、ふたを外して中をのぞいてみると、1匹の子猫がいた。やせていて、体は泥水に濡れて震えていた。
Aさんは、子猫をひとめ見ただけで、下半身が動いていないことに気が付いた。以前、保護して飼っていたいろ葉ちゃんという猫が動けなくなった時を思い出した。Aさんに助けを求めるように、まっすぐ目を見つめ、栄養失調で声は出ないが鳴こうとする子猫。
「迷わず抱き上げて保護しました。抱き上げたときに下半身がダランとする感覚は正直ちょっと怖かったです」
初日から圧迫排泄で苦心
Aさんは何匹もの猫を保護して、里親を探したり、自分で飼ったりしていたが、脚を投げ出してペタンと座る姿は見たことがなく驚いた。獣医師に診てもらうと、体重400グラム、生後1カ月くらい、栄養失調だと言われた。外傷がなく、先天性の麻痺ではなさそうなので、人間に虐待された可能性があるということだった。
ご飯はすぐ食べたが自力で排泄ができず、初日から圧迫排泄(膀胱を直接押しておしっこをさせ、便も絞り出す)との戦いだった。強く押しすぎると膀胱破裂で即死する可能性があるが、力が弱すぎると出ない。とにかく力加減が分からず四苦八苦したという。Aさんはネットの動画を見て試行錯誤した。幸い子猫が嫌がらなかったので、2日後には圧迫排泄が出来るようになった。
以前飼っていたいろ葉ちゃんは、最初、男の子に間違われたので、伊達政宗の側近、片倉小十郎にちなんだ「虎十郎くん」という名前だった。Aさんは、保護した子猫といろ葉ちゃんの容姿が少し似ていたことと、いろ葉ちゃんの分まで生きてくれるようにという願いを込めて、「虎十郎くん」という名前にした。
ハンディをものともせず
先住猫たちは少し距離を取りつつも興味津々。むぅちゃんだけが、初日から我が子のように可愛がり、ずっと寄り添っていた。
今は他の子たちと対等で、遊んだり、時折ケンカをしたりして、いたって普通の猫と同じように暮らしている。脚が動かないので、自分で毛づくろいができないところがあるのだが、そこは一緒に暮らす猫仲間の花重ちゃんや甲斐ちゃんが舐めてあげている。
脚や尻尾は少し動かせるようになったが、腰の神経が麻痺しているようで今も立つことはできないが、ものすごい速さで腕だけで歩き回ることができ、その姿はとてもパワフル!キャットタワーに登る時は腕だけを使い、まるでロッククライミングをするように登る。
Aさんは、圧迫排泄を「いやなことをされる時間」と認識させないよう、明るく楽しくやるよう心がけた。まず膝の上に抱っこして、話しかけながら撫でたり脚のマッサージをしたりしてからするようにしている。「直前にマッサージすると、排泄時に上手に足踏みしたり踏ん張れたりします」