街中から追いやられるお化けたち ネット上の都市伝説を徹底調査、100年前と比較

昔は身近に出没、今は郊外で絶滅危惧種化

神谷 千晶 神谷 千晶

 今も昔も怖いけれど、ちょっと気になる妖怪や幽霊。薄暗い墓地のそばをドキドキしながら歩いたり、「もったいないお化けが来るよ」と脅されたりした思い出は誰しもあるのではないだろうか。でもそんなお化けたち、時代とともに人里離れた郊外へ追いやられ、種類も激減しているというのだ。ネット上に流布する都市伝説と、約100年前の怪談を調査した富山大の鈴木晃志郎准教授(人文地理学)は「昔の妖怪はもっと身近で個性豊かで、コミュニケーションも成立していた」と話す。どうして彼らは絶滅危惧種化してしまったのか―。

 鈴木さんは当時の大学院生・于燕楠さんとともに、明治・大正期の怪談記事を再編した「越中怪談紀行」(桂書房)から62地点、インターネット上で検索した怪異エピソードから52地点を抽出。それらの心霊スポットを富山県内の地図にマッピングした。

 その結果、現代の怪奇現象は郊外や山間部に集中。たとえばトンネルでは、落ち武者が追いかけてきたり、ガラスに血の手形がついたり。ホテルの廃虚がある「坪野鉱泉」は北陸随一の肝試しスポットだし、女性のすすり泣く声が聞こえるダムの話もあるという。

 一方、昔のお化けが出没するのは市街地や集落付近が多かった。たとえば男が町外れの火葬場近くで美女に出会った話。腹痛を訴えるのでおぶってやったが、怪しいので締め付けると正体は老いたムジナだったという。幽霊が出るので「幽霊風呂」と呼ばれた湯屋の話もあり、今も実際に町の陶器店として実在するそうだ。

 さらに現代の怪奇現象は人間の姿をした幽霊に画一化され、目に見えないことも多いのに比べ、古来の怪異は新型コロナで話題になったアマビエをはじめ、ぬりかべや一反木綿のように多種多様なキャラクターがたくさん。遭遇してしまった人間側もおぶってやったり刀で切りつけたり、ただ受け身なだけではないさまざまな交流があったのだという。

 市街地にお化けの居場所がなくなってしまった背景について、鈴木さんは「死が身近な存在ではなくなり、タブー視されるようになったからでは」と指摘。病室で最期を迎えることが当たり前になり、遺体の腐敗も目にしなくなった今、生と死の境界にある怪異も日常の生活圏から遠ざかってしまった。また、ムジナ(今でいうアナグマやタヌキ)などの野生動物を都市部で見かけなくなったことも、人の姿の幽霊しかいなくなった理由に挙げられるという。

 でも「ゲゲゲの鬼太郎」や「妖怪ウォッチ」、幽霊屋敷のアトラクションのように、お化け人気は今も健在なのでは? 鈴木さんいわく「彼らはファンタジーの世界でのみ存在を許され、わざわざ会いに行く『娯楽』になったのです」。

 しょっちゅう身近に妖怪や幽霊が出てこられても困るけれど、彼らがのびのびと出歩けない世の中も少し寂しい気もする。

鈴木晃志郎・于 燕楠 2020. 怪異の類型と分布の時代変化に関する定量的分析の試み. E-Journal GEO 15(1): 55-73. https://www.jstage.jst.go.jp/article/ejgeo/15/1/15_55/_article/-char/ja

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