コロナ禍に伴い、興行の世界はオンライン配信で活路を模索している。落語家の2代目林家木久蔵(44)はオンライン寄席「電笑亭」を旗揚げし、27日に始動する。初回は無料配信だが、その運営費等をまかなうため、25日の23時59分59秒までクラウドファンディングで資金を特典付きで募る。席亭を務める木久蔵、第1回のゲストで日本テレビ系「笑点」の黄色い着物でお馴染みの父・林家木久扇(82)に思いを聞いた。
都内の寄席は営業再開後も入場制限を行い、通常の約半分の定員で開催。木久蔵は「高齢の方、地方や海外の方など、多くの落語ファンが寄席に来ることが不可能となっている。一部の若手はユーチューブ等を駆使して高座を開いていますが、多くの落語家、落語ファンはネットよりは寄席に足を運ぶ事の方に慣れています。テクノロジーとは無縁の業界です」と現状を説明した。
木久蔵は「落語だけで食べられる人は少ない。ウーバーイーツの配達員を始めた若手落語家もいます。バイトは禁止だとか、粋(いき)じゃないとか言われてきましたが、みんな生活や家庭があって、そんなことは言っていられない。先行きが見えないこの状況で若手にも活躍の場を作れたら」と思いを語る。
これまでオンラインで単発の落語会はあったが、都内にある4定席である浅草演芸ホール、上野・鈴本演芸場、新宿・末廣亭、池袋演芸場に続く「第5の定席」を目指す。「オンラインの良い点は協会とか所属とか関係なく、みんなを集められること」(木久蔵)。第1回には、若手時代から古典の実力派として知られる柳家三三(さんざ)、立川流から立川志の春らが出演する。
支援金は千円から30万円まで11パターン。「終演後のオンライン打ち上げ参加(1万円)」「エンドクレジット(6千円)、提灯(3万円)、後幕(5万円)に名前掲出」「スタジオ観覧&記念撮影(10万円)」などの特典が「返礼品」としてある。目標総額は100万円。8月下旬に達成したが、次回分のプールをするために引き続き募集中という。
木久扇は昨年末からユーチューバーとして活躍。「ウーバ―イーツで言えば、うちのお弟子さんもやっていますが、タピオカドリンク一杯を(都内の)三軒茶屋から大井町まで届けて、こぼしちゃいけない、段差でガクンとなったら嫌だな、それで500円。1日8回やるそうです。また、おそば屋さんが出前をやめてウーバーのバイトやってるとか、本屋ではソーシャルディスタンスで離れて立ち読みしていたり、週刊誌は他人が触ってないであろう一番後ろから取って買っていくとか、そんな日常を落語にしたら、コロナ時代の新しい切り口になる」と提言した。
さらに、木久扇はコロナ禍の寄席風景にも注目。「楽屋の貼り紙に『飛沫が飛びますから(お客さんを)笑わせないでください』と書いてあった。『空気が動きますから、拍手をもらわないでください』とか。それって、おかしいじゃないですか(笑)。そこをマクラに『大変な時代になりましたねぇ』と」。80代の今も現役として笑いにつなげる観察眼を維持し、ネタを考え続けている。
長男の木久蔵は「このジャンルで足りないのは信用。信用を得るために父に出てもらいます。名誉会長です」とエールを送ると、木久扇はすかさず「名誉」にかけて「メエ~」とヤギの声色で反応しつつ、「1回目は御祝儀で見てもらえますけど、ずっと続けなければいけないから、仕掛けや作戦を考えないとね」と助言。今回の挑戦を後方支援する。
木久蔵は「満員のお客さんの前でやるのは数年後になるかもしれません。元には戻れないとも思うので、今の時代を生きて行くしかない」と腹をくくった。さらに「この自粛の間に生まれた文化の1つがズーム飲み会とかリモート。そこを組み込んで生き残っていけるか、共存できるか。第1回は生でやります。今後、できれば月1でやりたいですが、毎回、クラウドファンディングでみなさんに募ってやっていけるかは未知数で分かりません。CGなども使ったオンラインの長所を生かした『劇場』として、いかに面白おかしくできるかを考え続けていきたい」とコロナ時代の落語の在り方を見据えた。