新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、疫病よけの妖怪「アマビエ」がよく知られるようになりました。しかし、江戸時代のアマビエ出現よりはるか以前から、疫病よけとして信仰を集めた僧侶が日本にはいました。今、改めてその生涯を紹介する本が出版されるなど注目が高まっています。
その僧侶は、平安時代に活躍した天台宗の良源(912~985年)です。おみくじの元祖や、比叡山中興の祖として知られ、正月の3日に亡くなったことから「元三大師」の名でも知られています。
疫病が流行したある年、良源は人々を救うため自ら疫病神を追い払う鬼の姿になり、その姿を弟子に写させました。弟子たちはその絵をお札に刷って人々に配りました。お札を貼るとその家の住人は疫病を免れたといいます。アマビエが最初に描かれた1846(弘化3)年からさかのぼること約850年も前のことでした。
この良源の姿を写したお札は「角(つの)大師」として呼ばれ、お札を玄関に貼ると、疫病よけや魔よけになると千年後の今でも大切にされています。お札は廬山寺(京都市上京区)や比叡山の横川エリアにある元三大師堂(大津市)、さらには深大寺(東京都調布市)や喜多院(埼玉県川越市)で授与されています。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、良源や「角大師」のお札への関心が高まっています。今年3月には、良源生誕地に建つ玉泉寺(滋賀県長浜市)で角大師のお札の復刻が始まりました。
玉泉寺の吉田慈敬住職によると、同寺は7月までに1万5000体近くのお札を授与しました。吉田住職は「お札を受けることで新型コロナウイルスにかからないようにする。その心がけが重要なのではないでしょうか」と話します。
6月には良源の生涯とその信仰について記した本「疫神病除(えきしんやまいよけ)の護符に描かれた 元三大師良源」(サンライズ出版、32ページ、990円)も出版されました。すでに増刷が決まるなど注目度も高いようです。
この本の執筆者で長浜城歴史博物館の福井智英学芸員は「天台宗では多くの有名な僧侶がいますが、民間信仰として生き続けている元三大師は特異な存在なのではないかと思います。アマビエも話題になりましたが、滋賀・長浜ゆかりの元三大師をさらに知ってもらえればうれしいです」と期待しています。