「なんて寂しそうな顔をしているの」
山形県でイタリアンレストランを経営している高橋さんは、里親募集サイトに掲載されていた、さくらちゃんのプロフィール写真を見たとき、そう思った。
寂しそうな顔をしていたのは無理もない。さくらちゃんの最初の飼い主の家は多頭飼育崩壊の家だった。不憫に思った茨城県に住む男性が、さくらちゃんをその家から引き出した。しかし、その男性も仕事の関係で、やがてさくらちゃんの面倒を見ることが難しくなり、サイトで新しい里親を募集した。
「私がなんとかしなければ」。そう思った高橋さんは、同居している両親にお願いして、昨年5月1日、山形から茨城まで車でさくらちゃんを迎えに行ってもらった。実は高橋家は元々犬好き家族。「もも」という柴犬を飼っていたが2年前の夏に病気で死んでしまった。ショックでしばらく犬を飼いたいと思えなかったが、サイト上でさくらちゃんを見たとき、いてもたってもいられなくなり飼う決心をした。
「最初はすごく不安そうな顔をしていました。体も震えていました。外に出た事がないようで、爪も伸び放題でした」(高橋さん)。しかし、1カ月も経つと、そんなさくらちゃんは高橋家の家族に気を許すようになった。高橋さんはレストランでの仕事を終え、帰宅するとさくらちゃんと一緒に毎日1時間の散歩をすることを日課とした。そしてご飯を手作り。なかでも、さくらちゃんの大好物はオーブンで焼いた砂肝だ。
高橋さんの愛情が伝わり、今ではすっかり甘えん坊犬になった。そして外遊びも好きになり、雨の日でも雪の日でも、散歩をおねだり。高橋さんは「今まで辛い想いをしてきたけど、大切に育て、さくらにこの家の家族になって幸せ、って思ってもらいたい」と話す。建築業の高橋さんの父が作ってくれたハウスが大好きで、そこで高橋さんの帰りを毎日待っている。