「去年は生き地獄。今はライフが来てくれて『あぁ、幸せだ〜!』って実感しています」
笑顔でそう話してくれたのは兵庫・西宮市に住む河田真紀子さん。2017年3月に『好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)』と診断されました。聞きなれない病名ですが、膠原病の一種で国から『指定難病』に認定されている病気。国内の患者数は約2000人と言われています。
河田さんのセリフに出てくる「ライフ」とは今年5月に迎えた柴犬の女の子です。繁殖業者から一般社団法人『MOKOん家』を経て家族になりました。盲導犬のパピーウォーカー(盲導犬候補の子犬と約10か月暮らすボランティア)を2度務め、その後はシェットランド・シープドックの三葉(みつば)ちゃんと生活。犬との暮らしが日常になっていた河田さんですが、三葉ちゃんを亡くした3カ月後にEGPAを発症します。
「ずっとしんどくて寝てばかりでしたし、喘息の症状もあったので、もう一生犬は飼えないなと…」(河田さん)
激しい倦怠感に襲われ一日中、横になって過ごす日々。それが長く続くうちに今度はうつ病になり、昨年3月には入院を余儀なくされました。これが河田さんの言う「生き地獄」です。
当時は精神的にも肉体的にもどん底だったそうですが、家族や友人に支えられ徐々に回復。今年3月には「また犬と一緒に人生を歩みたい」と思えるまでになりました。
「元気を取り戻すことができて、自分では『奇跡の復活』とか『ニュー河田』と言っていますが(笑)、これからの人生、好きなことをしよう!と思ったんです。私は自然や生き物が何よりも好きなので、漠然とした夢のひとつだった『保護犬を飼う』という夢をかなえることにしました。病気ですごく苦しんだから、自分へのご褒美という意味もありましたね」(河田さん)
とはいえ、条件に合う犬をネットで探したり、実際に会いに行っていた最初の頃は、まだ犬を飼う決心が完全にはついていませんでした。背中を押してくれたのは『MOKOん家』代表・寺谷朋子さんの言葉だったと言います。「残りの人生、楽しもうと思った」――寺谷さんもまた、難病を患っていたのです。もちろん、そこでライフちゃんに出会ったことも大きかったでしょう。初対面のときは逃げ回られたそうですが…。
「同じ繁殖場から来た柴犬が2匹いたんです。名前はらーゆとみりん。らーゆが今のライフで、ずっと逃げ回っていました。みりんちゃんは尻尾を振って寄ってきてくれたので、普通はそちらを選ぶのかもしれませんけど、ライフの方が小さかったのと、顔がタイプだったので(笑)決めました」(河田さん)
繁殖場にいたライフちゃんがどの程度、出産させられていたかは分かりません。ただ、両前足には交配のとき動けないように固定されていたと推測される傷跡が残っていたり、痩せていて毛艶が悪かったりと、飼育環境の悪さがうかがえる状態でした。フードもなかなか食べてくれず、河田さんはライフちゃんの背中をなでながら、よく「たわしみたい」と笑っていたものです。でも1カ月もすると食欲が出て毛色が濃くなり、見違えるほどサラサラに。新しい環境、新しい家族に慣れてきたのでしょう。
ライフちゃんの変化は他にもあります。
「最初はずっと玄関にいて、逃げ出すことばかり考えているように見えました。繁殖屋でもMOKOん家さんでも、ライフは犬社会の中にいた。でもここではひとりだから、帰りたいのかなと思っていたんです。今はリビングにもいてくれるようになったし、膝に手を掛けてきたり、どんどんかわいくなっていますよ」(河田さん)
『ライフ』という名前には、河田さんの強い思いが込められています。
「ライフの第2の人生。私の第2の人生。ライフと私の大事な命。一緒に人生を歩んで行こうね、というメッセージを込めて付けました。子犬から育てるのとは何かと違いますが、ライフとゆっくりゆっくり信頼関係を築いていこうと思います」(河田さん)
河田さんとライフちゃんの第2の人生は始まったばかりです。