野犬の子として生まれた兄妹、保護され塾の人気者に…通う子供たちと一緒に成長中!

岡部 充代 岡部 充代

 小学生から高校生まで幅広い年齢層の子供たちが通う兵庫・西宮市の『さくら塾』。カーペットが敷き詰められた教室に靴を脱いで上がり、時にソファーや床でくつろぐ姿も見られるその塾は、まるで自宅で勉強しているよう。だからなのか、そこに2頭の犬がいても何の違和感もありません。

   春君と杏ちゃんは1歳になる兄と妹。岡山で野犬の子として生まれ、他のきょうだいと一緒に保護されました。そして、犬や猫の里親募集サイト『ペットのおうち』が出会いの場となり、塾の経営者である萩野美紀さんのもとへやって来たのです。

「去年の1月に先代のはなこが16歳で亡くなって、しばらくは元気な犬を見るのがつらかったんです。でも、そろそろ…と周りからも言われて、『ペットのおうち』で春を見つけました。自分の年齢を考えると、子犬から飼えるのはラストチャンスかなと」(萩野さん)

 当時、春君は生後2か月半(推定)。保護主に問い合わせると妹がいることが分かりました。左後ろ脚に障害があり募集を停止していたそうですが、「写真を見せてもらうと、妹のほうがかわいかった(笑)」(萩野さん)。東京で暮らすご主人には「2匹とも飼っちゃえば?」と言われ、近くに住むお姉さんには「2匹は無理でしょう」と言われ…。

 ゴールデンウイーク明け、萩野さんはお姉さんと一緒に岡山へ行きました。譲渡会の会場で、新しい家族との出会いを求めて表にいた杏ちゃんとはバッチリ目が合ったと言います。一方、春君はといえば、“予約中”ということで裏にいたのですが、まったく目を合わせず…。萩野さんは「なんや、コイツ!」と思ったそうです。

 かわいいと思ったのは杏ちゃん。でも最初に迎えたいと思ったのは春君。他のきょうだいはすでに里親さんが決まり、兄と妹が残っていました。「引き離すのはかわいそう」。そう思った萩野さんは、2匹一緒に引き取ることにしました。

 動物病院でレントゲンを撮ってもらうと、杏ちゃんの足は骨折したまま固まっていたことが分かりました。病気が原因の障害ではないため、太り過ぎに注意する以外に特に気を付けることもなく、見た目には少し不自由そうですが、杏ちゃんは元気に走り回っています。子供たちがいないときは…。

 2頭は毎日、午後早めの時間に塾に来て、萩野さんの仕事が終わる夜遅くまでいます。先代のはなこちゃんもそうでした。塾を開講した2008年から亡くなるまでずっと“同伴出勤”。昨年1月に亡くなったときには、塾でお葬式も行われ、子供たちが参列したそうです。

「亡くなる前は点滴が必要だったのですが、中学生の子が手伝ってくれていました。最初はそんなつもりはなかったけれど、ここに犬を連れてくることで、子供たちに命の大切さを学んでもらえているかなと思います。動物を大切にする心は、人を大切にすることにつながりますから。“死”と向き合う経験をしてもらえたことも、良かったと思っています」(萩野さん)

 塾生の中には、「はなこがおるって分かったから、この塾に決めた」という子もいたとか。犬が好きでも家では飼えない子たちにとって、塾で触れ合えることは大きな喜びなのでしょう。勉強の息抜きに、散歩に連れて行ってくれる子もいるそうです。

 春君と杏ちゃんは子供たちが勉強している間、邪魔をするようなことはありません。少し怖がりのところがあり、大勢の人は苦手。学習スペースから見えないところにあるイスの下に、2頭寄り添って寝ていることが多いようです。それでいて、子供たちが近寄ってくればじっとなでさせてあげる。塾の“看板犬”としては満点!子供たちが帰って静かになると、きょうだいで追いかけっこや“ワンプロ”を始めると言いますから、本当にわきまえています。

「時々は、子供たちがいても学習スペースに出てきて遊ぶことがあります。でも、子供たちは気にせず勉強している。そんな集中力が養われるのも、犬を塾に連れてきている狙いの一つなんです」(萩野さん)

 適性を考えて春君と杏ちゃんを迎えたわけではありません。でも、結果的にピッタリの子たちが来てくれました。野犬の子として生まれた兄妹は今、塾に通う子供たちと一緒に成長しています。

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