アイデア商品「アメトマスク」に注文殺到 マスクはコロナ危機のあめ店の経営を救った

浅井 佳穂 浅井 佳穂

 「アメトマスク」-。どこかで聞いたことのあるような名前の、あめとマスクのセットを京都の製菓会社が販売しています。社長に販売とネーミングの経緯を聞くと、そこには新型コロナウイルスの影響で売り上げが落ち込む中で、必死に会社を守ろうとする社長や社員の努力の跡がありました。

 「アメトマスク」を売っているのは京都府宇治市の岩井製菓です。岩井製菓は1964年の創業で、あめを製造するほか、京都や奈良で菓子の販売店やレストランなど8店を営んでいます。

 岩井正和社長(50)によると、新型コロナウイルスの影響が業績に表れ始めたのは今年2月以降。外国人観光客が減少したうえ、日本人観光客も次第に減り、それにつれて自社店舗の客足も遠のいていきました。2月の売り上げは例年と比べて2-3割減。3月の後半になると、店舗はさらに暇になったといいます。

 3月後半、岩井社長は、知人の和雑貨製造販売会社の社長に布マスクの販売を勧められました。「菓子店で布マスクが本当に売れるだろうか」。当初はかなり悩んだそうです。試験的に布マスクを店に置くと、予想以上に売れました。

 4月になっても、新型コロナウイルスの感染拡大は続きました。この時期、岩井社長は苦渋の決断で店を休業し、社員にも休んでもらったと振り返ります。

 危機を乗り越えるヒントを得たのは、知り合いの禅僧と話したときのこと。「社員に指示を出すだけではなくて、社員に何ができるか聞いてみよう」と思い立ったそうです。4月中旬、岩井社長は、社員にアンケートを行い「あなたの特技はなんですか」と問いました。後に、このアンケートが役立ちます。

 試験販売で布マスクが売れたことを受け、岩井製菓はあめとマスクをセットにし、通信販売で売り出すことを決めました。ネーミングに悩んでいたところ、社員の一人が「アメトマスク」を提案しました。政府が全世帯に配布する「アベノマスク」と母音が同じで覚えてもらいやすいだろう、との判断でネーミングを決めました。

 5月の第2日曜日の「母の日」に向けて、岩井製菓は、白いレースや花柄の布マスクと、ハッカやショウガのあめを詰め合わせたセットを準備しました。「アメトマスク」の人気に火が付いたのは直後でした。

 大型連休中に千個単位で注文が殺到。布マスクを手がける和雑貨の会社に報告すると、「そんなに多くの布マスクは作ることはできない」といったんは断られたといいます。「どうしよう。受けた注文を断らないといけない」と岩井社長は頭を抱えました。

 何かいいアイデアはないかと、社員に特技を尋ねたアンケートを改めて読み返すと、「裁縫」と書いた人が十数人いました。社長はその社員たちに頼み込み、和雑貨の会社のもとで布マスク製造を手伝ってもらうことにしたそうです。社員たちの奮闘でなんとか布マスクはできあがりました。

 その後も、6月の「父の日」に向けて、灰色の縦じまや黒色などの布マスクとあめを組み合わせた「父の日 のどあめとマスクセット」を売り出しました。現在は暑い時期でも着用できる「接触冷感」の布マスクと熱中症予防になる布マスクのセットを販売中です。

 「5月は布マスクの売り上げに会社を救ってもらった」と岩井社長は振り返ります。とはいえ、本業はあくまであめ店。「ぜひマスクを着けてでも京都を観光し、あめなど多くのお土産を買ってもらいたい」と話します。

 アメトマスクという奇抜なネーミングには、新型コロナ禍にもまれながらも、本業を守り抜く社長と社員の知恵と努力が詰まっていました。

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