新型コロナウイルスの感染拡大によって銭湯が打撃を受けている。東京スカイツリーのおひざ元で営む「押上温泉 大黒湯」(東京都墨田区)では客足が半減し、売り上げは60%減となった。さらに、同区内の錦糸町エリアにある姉妹店「黄金(こがね)湯」は今年6月のリニューアルオープンを予定して2月から改装工事に入ったが、コロナ禍による工事の一時中断で作業が遅れ、さらに工事費も膨らんだため、クラウドファンディングで資金を募り、8月の再開を目指している。銭湯が置かれている現状や今後の可能性を探った。
大黒湯は1949年創業。2017年11月から終夜営業を実施するなど、さまざまな取り組みを通して、地元住民だけでなくインバウンドの外国人観光客らも訪れ、1日の平均利用者数はコロナ以前で平日600人、土日祝日800人だったが、コロナ禍で一変した。
3代目店主・新保卓也さん(40)と妻の朋子さん(42)は当サイトの取材に対して「この状況下においても地域の公衆衛生を守るため、運営を続けていますが、1日のご利用者数は平常時の半数以下。売り上げは60%も落ち込みました。とはいえ、諸経費などは通常と変わらないため、日々の経営を圧迫しております」と明かした。
考えてみれば、入浴しながらのマスク装着などはまず難しい。洗い場でのくしゃみや咳の飛沫を避けるための方策などはあるのだろうか。
新保さん夫妻は「大黒湯でのコロナ禍対策としまして、フロント、券売機、ロッカー等消毒液での清掃。脱衣所、浴室の換気。お客様での対応としまして、80分以内の利用協力。会話の是正。入店拒否をお願いする場合は、咳をしている方、熱がある方、倦怠感がある方です。サウナ内は通常入場客数7人のところ、4人までの入場制限としています」と説明した。
熱や倦怠感がある人に対しては、その旨を店頭張り紙で事前周知した上で、自己申告となる。感染の可能性を未然に防ぐ取り組みに徹している。
一方、黄金湯は創業が現存する資料で1932(昭和7)年とされ、大正時代からあったという説もある。いずれにしても、戦前から東京の下町で親しまれてきた銭湯だが、経営者の高齢に伴い、大黒湯が経営権を引き継いで2018年に姉妹店として再オープン。今では珍しい「薪(まき)」で湯を沸かし、レコード市が行われ、DJがプレイする銭湯として若い世代にも注目されていたが、配管からの漏水やボイラーの不具合など老朽化に伴って今年2月から改装に着工した。
ところが、コロナ禍で工事はストップ。大人470円の入浴料金で費用をまかなっていくには長い年月がかかる。そこで、5月下旬にクラウドファンディングを募った。300万円を目標としたが、わずか5日でクリア。さらに目標を600万円に引き上げ、7月1日現在、800人以上の支援者から約523万円が寄せられた。募集は8日に締め切られる。
黄金湯が改装されて再開すれば、朋子さんが店主となる。クリエイターやアーティストとのコラボで新たなスタイルの銭湯を生み出す計画が既に進んでいる。「銭湯を1つでも次の世代に繋げるという思いで黄金湯を継承させていただき、押上温泉大黒湯も露天風呂の改築、温泉認定、オールナイト営業など様々な事にチャレンジしてお客様に喜んでいただけております。互いに徒歩5分の距離にあり、銭湯文化を世界に発信して、この地域に少しでも貢献できるよう頑張ります」と抱負を語る。
最後に、コロナ時代における銭湯の今後を新保夫妻にうかがった。
「すべての公衆浴場で換気や清掃を今まで以上に徹底していると思います。入浴をする事で衛生を保て、かつ身体の深部まで体温を高める事により免疫力を高め、病気に負けない体づくりができます」
公衆浴場(銭湯)は街から姿を消しつつある。厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、東京都において1975年には2500軒あった銭湯は、2000年には1400軒となり、昨年には500軒を切って473軒となった。対コロナというだけでなく、銭湯文化の継承と向き合う模索の日々は続く。