あおり運転の厳罰化を盛り込んだ改正道交法が6月30日に施行されたことを受け、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は1日、当サイトの取材に対し、ドライブレコーダーの重要性を説き、コロナ禍の夏、車での長距離移動が増加すると予測して、その対策を解説した。
改正道交法では、あおり運転を「妨害運転」と規定。(1)対向車線からの接近や逆走、(2)前方での急ブレーキ、(3)車間距離を詰めること、(4)急な割り込みや危険な車線変更、(5)左からの乱暴な追い越し、(6)不要なパッシング、(7)不要なクラクション、(8)幅寄せや前方での蛇行運転、(9)高速道での低速走行、(10)高速道での駐停車という10行為を対象とした。
罰則は最高で5年以下の懲役または100万円以下の罰金、免許は即取り消しで再取得できない欠格期間は最大3年。7月2日には危険運転の適用範囲を拡大した改正自動車運転処罰法も施行される。
小川氏は「今回の改正法は2017年6月に神奈川県内の東名高速道路でのあおり運転に端を発した死亡事故から来ているわけです。それから3年。やっと今回、厳罰化になったと思います。罰則は酒酔い運転並みの厳しさとなりますが、随分時間がかかったと感じます」と振り返った。
東名高速夫婦死亡事故で逮捕された当時25歳の男性容疑者は、被害者夫妻と娘2人の乗ったワンボックスカーの前に割り込んで急減速するなどの妨害行為を繰り返した末、共に停車し、当時45歳の被害者男性に暴行。その後、後続の大型トレーラーが被害者の車に追突して夫妻が死亡した。
加害者の男は亡くなった夫妻側にあおられたなど、自身が被害者である旨の主張をしていたが、現場で遺族となった娘の証言を元にドライブレコーダーを精査し、男が虚偽の説明をしていると断定された。
小川氏は「ドライブレコーダーは前方だけでなく、後方も映すもの、360度撮影可能なもの、音声が入るものもある。証拠を保全するために必要です。あおり運転はもちろん、交通事故の当事者になった時にも証拠となる」と説明した。
さらに、同氏は「昨年、常磐道であおり運転殴打事件があり、毎日のようにテレビのワイドショーでやっていました。容疑者は茨城だけでなく、静岡や名古屋でもあおり運転をし、その被害者に直接取材をしましたが、突然のことで恐怖心しかなかったとお話されていました。再逮捕を繰り返していますが、大半の車がドライブレコーダーを、しかも後方にまで付けている車が多いと分かっていても、あおり運転はあるんです」と指摘した。
小川氏は「車という個室に入り、ハンドルを握ると人が変わるというけど、いらいらしたり、特に今はコロナの時期ということがあるのかもしれないが、もう少し冷静にならないと、事故はもちろん、自分の人生を台無しにしてしまう。今後、新しい法律ができたと共に、警察は間違いなく取り締まりに向けて厳しく動きます。警視庁などはヘリコプターを使い、プロが上から見れば、あおっているか、あおっていないかが、車間距離等によってすぐに分かる。ヘリコプターで確認し、下の覆面パトカー等に連絡して、取り締まりを強化していく」と説明した。
コロナ禍の中で迎えた夏。他府県への移動時、公共交通機関には新型コロナウイルス感染の恐れがあるため、例年以上に車で移動することが多くなると、小川氏は予測する。それだけに、あおり運転被害への備えが必要となる。
小川氏は「コロナも都内周辺以外は一段落して、他府県に移動することも出てきます。電車や新幹線などでの移動は感染の可能性があるので、高速道路を使ったマイカー移動が増えている。この夏、帰省や観光地などに行くにしても、あおり運転には気を付けて欲しい。あおり運転の車から人が降りてきてこちらに向かってきても、絶対に窓を開けないこと。車内ですぐに110番通報することが大事です」と呼びかけた。
また、同氏は「ドライブレコーダーはあおり運転の防止だけでなく、警察の無理をした取り締まりを抑える効果がある。警察の取り締まりでトラブルになることが多い『一時停止』について、運転者側は『止まった』と思っていても、現認した警察官は『止まっていない』『徐行している』と判断しているケースがある。そこでドライブレコーダーを見れば、止まったか、止まっていないかが分かるし、嫌な思いをしなくて済む。ドライブレコーダーを付けている車が増えれば、警察もより慎重に取り締まりをしていくことになると思います」と付け加えた。