クリアファイルの表面にずらりと並んだ美少女キャラクターたち。新作アニメの宣伝かと思いきや…世界遺産・仁和寺(京都市右京区)の霊場めぐりをアピールするグッズですって!? 京都を代表する大寺院が突如始めた美少女擬人化プロジェクト。どんな背景があるのか、お寺の人たちに聞きました。
仁和寺といえば平安時代の天皇が建立したお堂を源流とする由緒あるお寺です。代々、皇族や貴族出身者がお寺のトップ「門跡」を務めた歴史もあり、格式も備えています。
そんな仁和寺の北西にある成就山には、御室八十八カ所霊場と呼ばれるお堂が88カ所あります。江戸時代後期の1827(文政10)年、四国の八十八カ所に出向いてお遍路の旅をできない人のために四国の霊場を模して作られたそうで、それぞれのお堂には四国の1番から88番までのそれぞれのお寺と同じ名前が付けられています。
約2時間で巡ることができるコースですが、88体の仏さまに手を合わせることで四国でお遍路の旅をしたのと同じ御利益に預かれるとされます。この「御室八十八カ所霊場」は約200年にわたり、参拝者の巡礼路として、また地元住民のハイキング先として人気を集めてきました。
しかし、近年相次いで京都に襲来した台風の影響で約70のお堂が被害を受けたほか、山道も多くの場所で崩落が起きました。仁和寺によると、お堂や山道の修復、治山・治水工事には約60億円が必要だといいます。
仁和寺は若手僧侶を中心に、これまでの参拝者だけでなく、新たな層にも来てもらう方策を考えました。そこで出てきた案が、88のお堂の「美少女キャラ化」だったそうです。キャラクターの発信を通じて参拝者を増やし、さらにグッズ販売で修復費用を集めようというわけです。
昨年秋、仁和寺は、同人誌即売会の運営などで知られる鈴木龍道さん(35)をプロデューサーに招き、「御室ムスメプロジェクト」を発足させました。鈴木さんは、プロジェクトの成功を期すため、仁和寺の成就山を巡っただけでなく、四国にある八十八カ所も巡礼したそうです。その上で、88人の「絵師」と呼ばれるイラストレーターに執筆を依頼しました。
「御室ムスメ」と名付けられたキャラクターの中には、著名絵師さんの作品も含まれています。例えば人気スマホゲーム「Fate/Grand Order(FGO)」のイラストを手がけたAzusaさんは、88番のキャラクター「大窪遍音(おおくぼあまね)」を描いています。
それぞれのキャラクターの名字は、各お堂の名前を付けました。手にする持ち物も、剣や薬の入ったつぼなど、各ご本尊の特徴を表しています。キャラクターごとのテーマカラーも、各お堂の由来となった四国八十八カ所の所在地に合わせて定めました。阿波(徳島県)の23カ所は緑、土佐(高知県)の16カ所は青、伊予(愛媛県)の26カ所はだいだい、讃岐(香川県)の23カ所は白です。
「御室ムスメ」は、5月の大型連休中にオンライン上で行われた同人誌即売会「エアコミケ」でデビュー。さらに、グッズの第1弾としてクリアファイルが作られました。キャラクターを1体ずつ描いたデザインが88枚、テーマカラー別にキャラクターを集めた4枚の計92枚があります。
6月6、7日にはクリアファイルの試験販売が行われました。仁和寺によると、両日合わせて数百人が訪れたといいます。
と、ここで一つ疑問に思うのは、世界遺産の仁和寺がここまで「美少女キャラ推し」になって大丈夫なのかということ。トップの門跡に怒られなかったのでしょうか?
仁和寺の吉田正裕執行長は「今回のプロジェクトは御室八十八カ所のある成就山を信仰のお山として理解していただき、若い方にお山に来てもらうためです。瀬川大秀門跡も喜んでいると思います」と話します。
御室八十八カ所は2027年に開創200年を迎えます。この節目に向けて、仁和寺は毎月25日に護摩祈願を実施するほか、8月を除き12月まで毎月の行事開催日に特別な朱印の授与などを進めていくそうです。