白い法衣をまとった僧侶によるヴァイオリン演奏がSNS上で話題だ。演奏された場所は、あの有名な京都の仁和寺。1100年以上の歴史ある真言宗御室派の総本山で、世界遺産にも登録の由緒ある寺院に、ヴァイオリニストの葉加瀬太郎さんで有名な曲『情熱大陸』が響いた。しかし、なぜ寺院で僧侶がヴァイオリンなのだろうか。
名は明かせないが、ヴァイオリニストの僧侶は仁和寺の末社の住職。そして全国を対象に真言宗御室派の布教につとめる、「本山布教師」23名のうちの1人だという。音楽一家に生まれた彼は3歳からヴァイオリンを始め、なんと音楽大学を出て僧侶になったという経歴の持ち主。なるほど、音がきれいなのも、楽器と一体になって華麗に弾きこなす姿にも納得がいく。本山布教師のさまざまな布教スタイル中でも、彼は日頃からヴァイオリン演奏を取り入れているそう。ところで、なぜ僧侶になったのだろうか。
「詳しいいきさつは分かりませんが、彼の実家がお寺なのです」。
なんと僧侶の実家はお寺で、音楽を愛する一家が寺を切り盛りしていたのだ。「他のご家族が、どのような楽器を演奏するかまでは存じませんが……」と語ってくれたのは、仁和寺教学部の竹中さん。「キリスト教に讃美歌があるように、仏教にも音楽があります。例えば、お経に節をつけて歌うように唱える声明(しょうみょう)は、仏教音楽の一つです。そして仏を讃嘆(さんたん)する、つまりたたえるために、仏教には『音楽をお供えする』という考え方があるのです」。
はじめこそ西洋の楽器を僧侶が寺院で演奏するというギャップに驚いたが、音楽をお供えするという意味では西洋も東洋もさほど関係ないようだ。
仁和寺では3月初旬から参拝客に覆面(僧侶が儀式で用いるマスク)を提供したり、新型コロナウイルスで亡くなられた方への追悼や、早期終息の祈願など、宗教の側面から出来ることを行ってきたという。
「外出自粛で心身ともに疲れている人も多いと思います。この動画で、少しでもストレスを和らげていただければ、これほどうれしいことはありません」と竹中さん。
音楽は人の心にダイレクトに響くもの。特に疲れた心にはひときわ沁みる。僧侶の力強い演奏がSNSで「バズった」のもその表れだろう。来年の春は、仁和寺の御室桜とともに、自分の耳で僧侶のヴァイオリンを聴いてみたい。