保護した子猫は、不登校の子の心を和ませ、認知症の母親を笑顔にしてくれた…今ではピアノ教室の看板猫に

渡辺 陽 渡辺 陽

ピアノ教室の生徒の家の庭に迷い込んできた野良猫の子猫は、人懐っこい猫だったが、その家では飼えず、ピアノ教室を営む江口さんのところに来た。最初は里親を探すつもりだったが、猫を認知症の母親に会わせると、珍しく笑顔を見せてくれた。

庭に迷い込んできた野良の子猫

 

2009年6月19日、福岡県でピアノ教室をしている江口さんの生徒の家に1匹の子猫が迷い込んできた。犬を飼っていて、生徒も猫アレルギーだったので猫を飼うことはできず、庭にいるのは知っていたが、そのまま様子をみていたという。

翌朝庭に出ると、まだ猫がいて、生徒や家族の後をついて回った。生徒はどうしたらいいのか分からず、猫を飼っている江口さんに相談してきた。

「このまま放っておいたらどうなるの」と尋ねられ、江口さんは、交通量が多いので事故に遭うかもしれないこと、カラスに突かれて死ぬかもしれないこと、ごはんも寝るところ自分でみつけられないだろう伝えると、生徒は「がんばって捕まえる」と言った。

夕方、箱に入れた猫を連れてきた生徒は、猫アレルギーの症状が出ていた。近くに母猫の姿は見当たらず、どこで生まれたのか分からなかったそうだ。獣医も、ノミがついていたので飼い猫ではなく野猫だと言った。

 認知症の母が笑った

江口さんは、高齢の猫ごんくんを飼っていたので、家とは別棟のレッスン室で猫の世話をした。ごんくんのように優しく甘えん坊で、元気な猫に育つよう、濁点を取ってこんという名前にしたという。

猫を保護した生徒は、里親を探すために猫の似顔絵を描いた。他の生徒も猫の世話をしたり、遊んだりしてくれたが、こんくんは不登校の生徒の心をなごませた。

江口さんは認知症の母親と暮らしていたのだが、ごんくんが寝ている時、母親のところにこんくんを連れて行った。

「こんを見ると表情の乏しかった母が笑ったり、抱っこしたりしたんです。その姿を見て、こんを我が子として迎えることにしました」

2009年6月20日のことだった。

教室の看板猫もする癒し猫

2011年5月、江口さんの母親が亡くなり、8月には後を追うようにごんくんが亡くなった。すると、こんくんは、部屋のあちらこちらにマーキングしたり江口さんを噛んだりするようになった。「ごんくんが亡くなったからかもしれないが、ホルモンバランスが崩れたからかもしれない」と獣医は言った。

当時、江口さんが勤めていた職場には、「そんな猫、動物保護センターに持って行けばいい」と言う人もいた。思い悩んだ末、動物保護センターの人に相談すると、「こんくんを連れてきて相性をみたらいい」と言ってくれた。江口さんは、こんくんに鼻を寄せてきたここちゃんという猫を迎えることにした。

2匹は仲良くくらしていたが、2019年9月、ここちゃんが亡くなった。こんくんは、いまでもここちゃんを探しているという。

11歳になり、季節の変わり目には寒暖差に身体がついていかず、下痢や嘔吐をするこんくん。身体は衰えてきたが、教室の看板猫として、みんなに大切にされている。

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