新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言や自治体の休業要請などを受け、全国の映画館が休館を余儀なくされている中、新作映画を有料デジタル配信する試み「仮設の映画館」が5月2日午前10時から、いよいよ本格的にスタートする。インターネット上で見たい作品と映画館を選び、鑑賞料金1800円を支払えば視聴できる仕組み。収益は一般的な興行収入と同様の割合で、劇場、配給会社、製作者で分配されるため、休館中であっても一定の収入が確保できるアイデアとして注目されている。
上映する作品がなくなれば、映画館は潰れる
長年、小さな診療所で心の病と向き合ってきた老精神科医と妻の日々を描いた「精神0」の想田和弘監督と、配給会社「東風」が企画。「精神0」はもともと5月2日から、シアター・イメージフォーラム(東京)を皮切りに、全国で順次公開される予定だった。
だが新型コロナの影響により、映画館での上映が事実上不可能に。いったんは公開延期を考えた想田監督だが、「上映する作品がなくなったら映画館は廃業せざるを得なくなる」という東風のスタッフの言葉に危機感を覚え、急遽、「精神0」の公開タイミングに合わせて仮設の映画館構想を実現させたという。
若い層に手応えあり
仮設の映画館では「精神0」をはじめ、計11作品の“上映”が決定(5月1日現在)。上映館は作品ごとに異なる。また、東風の配給作品以外も多数加わっていることについて、東風の担当者は「他の配給会社からの問い合わせは多い。うちの作品だけでは焼け石にみずなので、理念に賛同してくださるなら、これからも受け入れていくつもりです」と話す。
6本の“上映”が始まる5月2日を前に、仮設の映画館ではすでに4月25日から、福島第一原発事故で全町避難となった福島県双葉郡広野町を舞台にしたドキュメンタリー映画「春を告げる町」の配信がスタート。東風は「SNSなどの反応からは、普段の映画館の客層よりやや若い人たちが視聴してくださっている印象で、『こういう形で見られてよかった』という声もいただいています」とする。
終息後は「本物」の映画館へ…
とはいえ、そもそも新型コロナによって停滞している「映画の経済」を回復させる苦肉の策。担当者は「あくまでも『仮設』ですので、終息後は速やかに閉じてもいいと思っています。状況が改善したら、ぜひ『本物の映画館』に足を運んでください」と呼び掛ける。
「精神0」関連のインタビューを全てオンラインでこなすなど、非常時の対応を模索してきた想田監督も「なりふり構わず助け合い、み・ん・なで生き残る」「座して死を待つつもりはありません」とコメント。5月2日16時からは、YouTubeで“初日舞台挨拶”を行うという。
◾️仮設の映画館 http://www.temporary-cinema.jp/
◾️「精神0」 https://www.seishin0.com/