固定費200万なのに休館は無補償… 窮地の老舗映画館「それでも今はまず感染防止を」

黒川 裕生 黒川 裕生

新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、60年以上の歴史を誇る神戸・新開地の老舗映画館「Cinema KOBE(シネマ神戸)」が、ついに11日から休館に踏み切った。政府の緊急事態宣言を受け、兵庫県など7都府県では8日以降、ほとんどの劇場が休館か営業時間の大幅な短縮を余儀なくされている中での苦渋の決断。同館支配人の木谷明博さんも「個人的には営業の自粛要請には補償が伴うべきだと思うが、今はウイルス感染を抑制するのが最優先。当館としてもコロナ終息後を見据え、『先に進む』ために休館して体制を整える時期と考えたい」と話す。

シネマ神戸は1957(昭和32)年、「新劇会館」の名で映画興行を開始。その後「シネマしんげき」に名前が変わり、2010年から今の劇場名になった。2スクリーンあるうちのひとつはロードショー公開を終えた洋画2本立ての二番館、もうひとつは全国でも珍しいフィルム映写機で上映する成人映画館。かつては「映画のまち」と呼ばれた新開地のにぎわいの一翼を担ってきた。

補償ゼロ、売上ゼロ、固定費200万円

補償のない“自主的”な休業が待ったなしで直面するのが、固定費の問題だ。

シネマ神戸の場合は、劇場を前の所有者から買い取った際に借り入れた金融機関への返済が金利を含めて毎月50万円ほど、水道料金が月2〜3万円、電気料金が20万円前後、さらに配給会社への支払い、スタッフ3人分の人件費、社会保険料などを合計すると「1カ月に出て行くのはざっと200万円くらい」(木谷さん)。11日以降は収入がほぼゼロになるが、そもそも近年は観客が減って厳しい経営が続いていたため蓄えもほとんどなく、途端に行き詰まってしまう。

「政府や自治体は休業補償に消極的で、当てにして待っていてもいつになるのか、そもそも実現するかどうかすらわからない。とりあえず今は“入ってくるもの(=補償)”を期待するより、“出ていくもの”を止める方が現実的だ」と木谷さんは言う。「社会保険料や公共料金の支払いが猶予されるだけでも、こちらとしてはかなり助かる。けがの治療方法をあれこれ考える前に、とにかくこの“出血”を今すぐ止めてほしいというのが切実な願いです」

存続の危機に連携するミニシアターとは一線

この未曾有の事態に、全国のミニシアターは「SAVE the CINEMA」を掲げ、ネット上で緊急支援を求める署名活動を展開中だ。関西の13館は急遽オリジナルTシャツを販売し、その売り上げを均等に分配する取り組みを始めた(販売は12日まで)。このほか、クラウドファンディングの準備なども進んでいるという。

シネマ神戸にも声は掛かったが、木谷さんは悩んだ末に、これらの取り組みには参加しないことを決めた。

「趣旨にはもちろん賛同するし、二番館で毛色の違う当館をミニシアターの仲間に加えてくれることはとても嬉しいが、うちはうちでやれることをやろう、と。雇用調整助成金のように、新型コロナの特例措置が設けられている制度もあるらしいので、これから徹底的に調べて活用したい」

「また、これまで後回しにしていた事務仕事や大清掃、機材のメンテナンスなどに取り組みつつ、長期の休館を機に経営体制をきちんと整理し直して、コロナ終息後の再開に備えようと思っている」

納得はしていないが、やれることをやる

新型コロナウイルスの感染拡大で全国の映画館が苦境に立たされて以降、Twitterなどではシネマ神戸のファンから「どうにかして支援したい」という温かい言葉も届いた。木谷さんは「大変な状況だからこそそんな当たり前のありがたさをしみじみ感じるし、映画館同士の結束力も強くなった」と話す。

「補償がないことに決して納得はしていない。でも一方で、財源や公平性の面でかなり難しいのだろうということも個人的には理解できる。終息まで生き延びるために、休館中にやれることは全部やっていくつもりです」

◾️シネマ神戸 @CinemaKOBE

◾️SAVE the CINEMA @save_the_cinema

◾️関西のミニシアターの取り組み https://localcinema.base.shop/

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