家に居ながらインターネットでいやらしい動画を見ることができるこの時代に、街のポルノ映画館にはどんな人々が訪れているのだろうか。京都市内でも数少なくなったポルノ映画館「千本日活」(上京区)に1日に密着すると、そこには驚くべき光景があった。
訪れた日は、朝からあいにくの雨だった。おまけに「寒の戻り」で肌寒い。「人出はあまり期待できないかもしれない」。そんな予想は、いきなり覆された。
開館する午前11時半の少し前に到着すると、入り口近くに、どことなく所在なげな男たちがぽつぽつと傘を持って立っている。ざっと10人。「いずれも60代以上だろうか」と観察していると千本日活の社長に以前聞いた話が思い出された。
高齢者続々「安らぎの場」
「最近は高齢者が中心。行く場所がない老人たちの安らぎの場ですわ」。宮崎栄嗣さん(67)は近年の客層をそう語っていた。でも、高齢者がなぜポルノ映画館に押し寄せるのだろう。
千本日活はずっと年中無休だが、昨年9月の台風21号でトタン屋根が吹き飛んだ。天井に穴が開いて営業休止を余儀なくされた。「閉館も脳裏をかすめたが、この商売しか知らんし」と社長は改修を決断。座席も一新して4月10日、7カ月ぶりに営業を再開した。
「常連さんはみな高齢やから、半年も閉めたら忘れてしまうんちゃうやろか」。営業休止中、社長は冗談半分でそんな心配を口にしていたが、その心配は見事に裏切られた。
開場の時間を迎えると、来るわ来るわ。次々と切符が売れていく。
入館料は600円。お客さんが券売機で購入した券を社長が半分にちぎる。いったん入場すれば、3本立ての上映は見放題。何時間いても良いという昔ながらのスタイルを貫いている。
「色気なくしたらおしまい」
一人の常連客に話を聞けた。多くが仏頂面で座席に向かう中、笑みを絶やさず、つえを突きながら入り口すぐの階段をゆっくりと上がってくるご老人。「最近、足が調子悪くなってもうた」と気安く社長と話している。20年来の常連という。雨の中、彼をここまで夢中にさせる成人映画館の魅力とは何なのだろう。
ご老人が座る席との間に一つ席を空けて座り、声を掛けた。ハンチング帽に品のあるマフラーとジャンパー姿。なんと御年90歳。祇園で駐車場を経営しているらしい。「妻もだいぶ前にがんで亡くしまして、子どもも独立してますねん」。今は宇治市で一人暮らしという悠々自適のご主人は、すぐ隣の席にすっと移って快く質問に答えてくれた。
「もう棺おけに半分足突っ込んでるけどな、人間色気をなくしたらおしまいやで」。ここではポルノ映画を見るというよりは、さまざまな出会いが魅力だそうだ。「同世代でここで知り合って、葬式にまで出た友達もいる。人の縁はどこでどうなるか分かりません」。千本日活には連日通い、しばらく過ごした後、近くの千本通沿いにある古い喫茶店に寄っておしゃべりするのが決まりのコースという。「昔はこの辺も華やかだったからなあ」。彼にとって千本日活とは、薄れゆく街の艶っぽい記憶と戯れることができる数少ない場なのかもしれない。