インスタント食品の売り上げ250%…買いだめ・買い占めの起こったスーパー業界 現場で何が起きていたのか

平藤 清刀 平藤 清刀

緊急事態宣言が出されてから、街から人の姿は激減したが、日夜われわれの生活物資を供給し続けるために奮闘する人たちがいる。各地のスーパーでは買いだめ・買い占めが起こり、インスタント食品の売り上げが前年同期比250%になった店舗もあるという。販売、輸送の現場には大きな負担がかかっており、どのように従業員の安全を守りながら、営業を続けられるか、模索が続いている。

一斉休校の要請が出てから食料品を求める客が殺到

今年2月27日、安倍晋三首相は新型コロナウィルス感染症対策本部で、全国の小中学校と高校、特別支援学校に、3月2日からの臨時休校を要請する考えを表明。それ以前からマスクや消毒液といった衛生商品の買いだめは行われていたが、この表明を契機に食料品・日用品についても品薄の危機感が高まり、全国のスーパーには、食料品を買い求める客が殺到した。

「一斉休校の要請が出てから3日間ぐらい、買いだめや買い占めが発生しました。とくにインタスタント食品の売り上げは、前年同時期との比較で250%に達した店舗があります」

スーパーの売り場で何が起こったのか…一般社団法人全国スーパーマーケット協会(NSA)の広報室の担当者は当時の様子を振り返る。

協会はこれ以上の危機感をあおらないようにするため、マスコミ各社に対して、空になった商品棚ばかり映さないことと、商品は平常どおり供給されるので、買いだめする必要がないと報道するように、再三はたらきかけたという。また当協会もTwitterやFacebookを通して来店時間をずらしてもらうように呼び掛けたりした。それらが功を奏したのか、4月7日に緊急事態宣言が出されたときは、多少の混雑はみられたものの2月ほどではなかったという。

オーバーワークと理不尽なクレームに疲弊するパート従業員

一方、売り上げが増えているということは、表面的には良さそうなことだが、その分仕事が増えているということでもある。店頭で接客しながら働く従業員の多くが、パートタイマーやアルバイトだが、負担は彼らにのしかかる。

「はっきりいいまして、従業員のモチベーションも全般的に下がっています」と担当者。

慢性的に人手が足りていない状況なのに、学校が一斉に休校した影響が追い打ちをかけているという。大学生のアルバイトが休校にあわせて郷里へ帰るため辞めてしまうケースや、高校生のアルバイトも、休校中に働かせていいのかというクレームを恐れて、辞めてもらったという状況が少なくない。

そのため、ふだんデスクワークをしている事務スタッフを動員したり、店長がレジ打ちを手伝ったりしてしのいでいるという。営業時間を短縮せざるを得ないのは、そういった事情も深く関係しているのだ。

「お客さんからの理不尽なクレームも増えています」

たとえば、混雑している店内を見て「なんで混んでいるんだ!」と、店員に食ってかかる客がいる。「皆さんにご来店いただくからですよ」と言い返せないのが辛いところ。そしてマスクや消毒液など、衛生用品が品薄になっていることに対しても、「なんで無いんだ」と容赦ないクレームが殺到している。

このように怒りの原因が分かるクレームはまだマシで、ときにはレジで「いちいち読みあげるな、買ったものぐらい自分で分かる。うるさい」というような、絶対に反論してこない店員を相手に鬱憤晴らしをする客もいるという。

現場に大きな負担がかかっていることは、経営陣にも分かっている。近畿や首都圏に275店を展開するライフコーポレーションでは、パートタイマーとアルバイトを含む全従業員約4万人に対し、緊急特別感謝金として総額3億円の支給を決めた。

また山口県でチェーンストアを展開するマルキュウでは、社内割引を通常の5%から10%へ引き上げたという。これのメリットは、会社は現金を支出しなくていいことと、自社の売り上げにつながることだ。しかも従業員も、お得に買い物ができる。

「日々奮闘している従業員に対して、なんらかの報酬があれば、モチベーションの保ち方も変わってくるでしょう。とにかく今はどのスーパーも、店内で感染しないように従業員の安全を守りながら、営業を続ける努力をしています」(NSAの広報担当者)

二分化されるトラック輸送の現状

そういった商品の物流を支えているのが、トラック輸送だ。日本の物流はトラック輸送が主流で、これが止まってしまうとあらゆる物資の供給が止まってしまう。新型コロナウイルスの広がりで輸送にどのような影響が出ているだろうか。

「トラック業界は、各企業様によりさまざまな荷物を輸送しています。当協会が把握している情報では、イベント関連の荷物を輸送している企業については、イベントが一切中止または延期になった影響で、たいへん厳しい状況に置かれています。一方で、生活物資を運ぶトラックはスーパーマーケットの売り上げが伸びている分、輸送量も増えています」

と話すのは、一般社団法人大阪府トラック協会企画室。荷物の量が増えたからといってトラックの台数が急に増えるわけではないから、偏ったドライバーの負担が大きくなっているはず。

「当協会では、新型コロナウイルスに関する情報提供のコーナーを設け、その中に会員企業からのお声をいただけるコーナーを設置したところです。そこに寄せられた意見等を集約して、問題点があれば当協会としても対処していきたいと考えています」

   ◇   ◇

マスク、トイレットペーパー、消毒液…これからどうなる

マスク、トイレットペーパー、消毒液…衛生用品については、相変わらず手に入りにくい。最後に、NSA担当者に、この状況がいつまで続くのか聞いてみた。

消毒用のアルコールは、手に入りにくい状態がまだ続きそうだ。その理由は「アルコールはあるのですが、容器の製造が追いつかないのです。メーカーのタンクごと買うわけにもいきませんし」

一方で、マスクとトイレットペーパーについては、見通しは明るいという。「台湾と中国でマスクの需要が減ってきました。ドラッグストアでも店頭へ出すタイミングを不定期にする取り組みが広がって、開店してすぐ売り切れることがなくなりました。あともう少しで、マスクは手に入りやすくなるとみています」と担当者。同じくトイレットペーパーなどの紙製品も「回復傾向にあります」という。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース