人類の夢「高速で水平飛行」「その場で離陸&着陸」 VTOL機の種類とその歴史

河野 嘉之 河野 嘉之

ベクタードスラスト方式

世界初の実用VTOL機となったイギリスのホーカーシドレー(のちにBAe)社ハリアーは1960年代に開発されたVTOL攻撃機。胴体内部に1機のジェットエンジンを持ち、胴体側面の4か所に角度が変えられるノズル(ベクタード・スラスト・ノズル)を装備。推力の方向を変えることによって垂直離着陸と水平飛行を実現した。ハリアーはその発達型のハリアーⅡを含めると約870機が生産されて、イギリス空海軍やアメリカ海兵隊で採用された。

ティルトウイング方式

飛行機の主翼は水平飛行の時に揚力を発生させるが、垂直離着陸の時には邪魔になる。そこで主翼を丸ごと90°立ててしまったのが、ティルトウイング方式。この方式で、実用的な輸送機として開発されたのがアメリカのヴォート社XC-142。1965年1月11日、転換飛行に成功した。主翼には4基のターボプロップエンジンを持ち、エンジンと主翼が一体となって垂直-水平-垂直と可動する。機体に大きな問題はなかったが、予算削減などで実用化と量産は見送られた。

ティルトローター/ティルトダクテットファン方式

ティルトウィング方式は主翼を丸ごと垂直に立てたが、こちらはエンジンとプロペラ部分だけを垂直に立てる方式。ティルトローター方式で初めて転換飛行に成功したのはアメリカのVZ-4という小さな実験機だった。VZ-4は、主翼の端に装備した大きな円筒(ダクト)の中にファンをもち、そのダクトを垂直に立てるので、ティルトダクテットファン方式とも呼ばれる。これと同じ方式でダクトを4つに増やしたのがアメリカのベル社X-22。1967年3月1日に転換飛行に成功した。ただ、このX-22、オジさん達にはどこかで見た懐かしい形をしている。そう、帰ってきたなんとかのなんとかジャイロの元だ! そして、ティルトローター初の実用機が、何かと話題になっているアメリカのベル社(現ボーイング社)V-22オスプレイだ。長い間の研究開発を経て、ようやく実用化されたV-22は1989年3月19日に初飛行し、現在、米空海軍と海兵隊などで多数が使用されている。

リフトエンジン& ベクタードスラスト方式

ロッキードF-35ライトニングⅡは、胴体後部に水平飛行用のジェットエンジンを1基搭載し、その排気口の角度を変えられる。加えて、その前方には垂直方向のリフトファンを搭載している。この方式はリフトエンジン& ベクタードスラスト方式と呼ばれ、旧ソ連で1970年代後半に実用化されたヤコブレフ設計局Yak-38フォージャーも同じ方式だった。

VTOL機の課題

滑走して揚力を得る通常の固定翼機と違い、VTOL機はエンジンやプロペラの推力だけで機体を空中に持ち上げるため、兵装などの搭載量が少ない。また、垂直離陸時の燃費の悪さも問題だ。そのため、F-35やV-22などの実用機は短距離離陸を行うことが基本とされ、特にF-35はSTOVL(Short take-off and Vertical Landing/短距離離陸垂直着陸)機と呼ばれている。

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