新たに導入する最新ステルス戦闘機F-35Bの実力とは 最高速度はマッハ1.6以上

河野 嘉之 河野 嘉之
水平飛行するF-35B。リフトファンを内蔵しているため、コクピット後方は膨らんでいる (撮影・河野嘉之)
水平飛行するF-35B。リフトファンを内蔵しているため、コクピット後方は膨らんでいる (撮影・河野嘉之)

 2019年8月16日、防衛省は航空自衛隊へ新たに導入するSTOVL(短距離離陸垂直着陸)機として、米ロッキード・マーチン社製の最新ステルス戦闘機F-35Bを選定したと発表した。2018年12月に閣議決定した中期防衛力整備計画(中期防)に導入を盛り込んでいたもので、42機を購入する計画。海上自衛隊最大の「いずも」型護衛艦(満載排水量26,000t)を事実上の空母(カタパルトを持たない、いわゆるヘリ空母)に改修し、F-35Bを搭載する想定だ。

 すでに、航空自衛隊はF-35Aを105機購入することを決定し、2018年1月から、青森県三沢基地の第3航空団へ配備を開始している。その第3航空団第302飛行隊所属のF-35Aが2019年4月9日に墜落事故を起こしたことは記憶に新しいが、この事故はF-35としては初めての死亡事故だった。それまでも、2018年9月28日に米海兵隊のF-35Bが墜落事故(パイロットは緊急脱出して無事)を起こすまで、20万飛行時間を超える無事故記録を達成していた。この記録は開発されたばかりの新鋭機としては異例で、例えば先輩格のステルス戦闘機F-22では10万飛行時間で3機が墜落している。

 F-35は1990年代中頃から開発が始められた統合打撃戦闘機(Joint Strike Fighter)と呼ばれる機体で、1機種で様々な用途に対応するため、地上基地から運用されるF-35A、STOVL性能を持ったF-35B、空母からカタパルトで射出される艦載型F-35Cの3種類が開発されている。現在までにF-35Aは米空軍をはじめ、世界10か国で採用されていて、F-35Bは米海兵隊、イギリス海軍など4か国が採用を決めている。大型空母で運用されるF-35Cは、今のところ米海軍と米海兵隊のみの採用だ。

 今回、航空自衛隊が採用を決めたF-35BはSTOVL機と呼ばれるが、これはShort take-off and Vertical Landing aircraftの略。つまり、短距離の滑走で離陸でき、垂直に着陸できるということだ。これに対し、VTOL(Vertical Take-Off and Landing /垂直離着陸)機は垂直に離陸し、垂直に着陸できる機体のこと。しかし、現代に於いて、これらは別の機体ではなく、STOVL機はもともとVTOL性能も持っていて、離陸時の燃費や兵装搭載量を考慮して短距離離陸を行うことが多い。V-22オスプレイもVTOL機だが、地上基地からの離陸では短距離離陸を行なっている。

 世界初の実用化VTOL機は、イギリスが1960年代に開発した攻撃機ハリアーだ。ハリアーは機体内部に1機のジェットエンジンを持ち、胴体側面4か所に角度が変えられるノズル(ベクタード・スラスト・ノズル)を装備し、推力の方向を変えることによって垂直離着陸と水平飛行を実現した。ハリアーはシーハリアー、ハリアーIIなど多くの派生型が開発されて、合計で約730機が生産され、イギリス海空軍、アメリカ海兵隊など各国で使用された。日本でも、山口県の米海兵隊岩国基地にAV-8Aハリアー、AV-8BハリアーIIが長年配備されていた。

 F-35BはハリアーIIの後継機として開発された。F-35の中で、A型とC型は基本的に同じ構造で、外形的には主翼と尾翼の面積や降着装置などが違う程度だが、F-35Bは構造的に別の機体といっても良いほどの違いがある。胴体後部に推進用(水平飛行用)のジェットエンジンF135-PW-600(最大推力約18.58t)を1基搭載し、その前方には垂直方向にリフトファンが配置されている。このリフトファンは推進用エンジンのシャフトを延長し、クラッチとギアを介して駆動する。短距離離陸、垂直着陸時には、このリフトファンの上下にあるドアを開くと同時に、胴体後端にある推進用エンジンの排気ノズルが回転して90度下を向く機構になっている。

 F-35Bの大きなリフトファンは機内スペースと重量を食うため、F-35Aと比べると航続距離が約75%、兵装搭載量が約83%と減少している。しかし、狭いヘリ空母や強襲揚陸艦の甲板から柔軟に作戦できる特性は、その短所を補って余りあるといえよう。また、エンジンの構造から、最高速度がマッハ0.89程度だったハリアーIIに対し、F-35Bの最高速度はマッハ1.6以上で、世界初の実用超音速STOVL機となっている。F-35Bは2008年7月11日に初飛行し、2015年7月31日に初期作戦能力を獲得した。そして、2018年9月27日には米海兵隊のF-35Bが実戦初参加を果たしている。現在のところ、F-35Bは600機程度が生産される予定だ。ちなみに、日本のいずも改修計画に対抗するためか、2019年7月12日には、韓国も3万トン級の軽空母を建造してF-35Bを導入する計画を発表している。

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